文中敬称略
キッシンジャー評価巡って二分する米論壇
今年5月、91歳の誕生日を迎えたノーベル平和賞受賞者ヘンリー・キッシンジャー(元米国務長官)の評価を巡って今、米国の論壇は真っ二つに割れている。
米ソ間の核軍縮、米中国交樹立、そしてベトナム戦争終結と1960年代後半から77年初頭にかけて歴史の歯車を動かした「偉大な政治家」だとの高い評価がある。その一方で、目的を達成するためには手段を選ばぬ「冷徹な実存主義者」といった厳しい見方も根強い。
キッシンジャー自身、今春には自らの外交理念を集大成させた著書『World Order』を上梓したばかり。それを受けたかのように第一線で活躍する2人の歴史学者が今年後半、それぞれ新著を著している。
1冊は、キッシンジャー外交理念を積極的に評価したハーバード大学教授のニアール・ファーガソン(51)の『Kissinger: Volume 1. 1923-1968: The Idealist』(キッシンジャー:第1巻「1923~1968年:理想主義者)。
キッシンジャーが若き政治学者として書き始めた論文から68年までの足跡を検証したキッシンジャー研究の第1弾だ。
ファーガソンは、このプロジェクトのために過去10年間、米議会図書館に保管されているキッシンジャー関連文書8380点、3万7645ページすべてに目を通し、精査したという。
著者は「キッシンジャー嫌いの集団」のリーダー格
一方、ここで紹介する本書、『Kissinger's Shadow』(キッシンジャーの影)は「キッシンジャーは冷徹な実存主義者(Existentialist)だ」と結論づけた1冊。
いわゆる「Hate Henry Industry」(キッシンジャー嫌いの集団)のリーダー格、ニューヨーク大学教授のグレグ・グランディンが著した新著だ。
キッシンジャー外交を批判的な立場から最初に取り上げたのは、2001年、英国出身の米ジャーナリスト、クリストファー・ヒッチェンズが著した「Trial of Henry Kissinger」(アメリカの陰謀とヘンリー・キッシンジャー)だった。
あれから14年、グランディンらリベラル派学者はその後、次々と明らかにされている機密文書に基づいてキッシンジャー批判をさらに強めているのだ。