試練を共有しながら神聖を尊ぶイスラム教徒の断食「ラマダン」の真っ只中のマレーシアが、政冶史上での最大の試練に直面している。現職首相が不正資金送金疑惑で当局から大捜査を受けるという前代未聞の事態に陥っているからだ。
しかし、ナジブ首相は「個人的流用」を否定しており、自ら退任する意思はなく、焦点は特別捜査チームが首相の政治力に屈せず、どこまで公明正大に調査を敢行し、公表するかにかかっている。
一方で、今回の疑惑リークはナジブ首相も確認済みの政府内の「機密文書」が出所と見られており、政局は早期退陣を主張する政敵のマハティール元首相をバックとする勢力に押される「ナジブ外し」に傾いている様子だ。
ナジブ陣営がこの勢力にどこまで対抗できるかが焦点となってきた。疑惑を払拭できなければ退陣を迫られるのは間違いない。
様々なスキャンダルがつきまとうなか、任期中に巨額の国家資産を横領しハワイに亡命したフィリピンのマルコス元大統領の再来を懸念する声も上がる。
今回の事件は、今年3月と4月にJBpress上で日本のメディアとしては最初に報道した「消えた23億ドル~マレーシア政府系投資会社の巨額不正疑惑(1)(2)(3)」に関連するものだ。
ナジブ首相の個人口座に850億円
巨額の借金を抱えるマレーシア政府100%出資の国有投資会社「ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)」(財務省管轄=財務相をナジブ首相が兼務。同首相は顧問委員会委員長兼非常勤代表)の運用資金疑惑にからみ、今月初旬、同投資会社からナジブ首相の銀行の個人口座に、約7億ドル(約850億円)が不正に入金された疑惑が発覚した。
1MDBの不正運用疑惑にナジブ首相が直接関与していたことを初めて示唆する同疑惑浮上は、この連載コラムでも単独インタビューしたクレア・ブラウン氏(元BBCジャーナリスト、英国の元ブラウン首相の義妹)が創設したロンドンに拠点を置くニュースサイト「サラワク・レポート」と米政治経済紙「ウオール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」が3日(日本時間)に同時に発表した報道が発端となった。
具体的には資金流入は確認されただけで3件。そのうちの1つはマレーシア政府内から拠出されていたようだ。
2012年に財務省に移管され、当時、1MDBが管理していたエネルギー会社「SRSインターナショナル」から同会社傘下の関連会社を通じ、結果的に同資金は、首相の3つの個人口座に送金されたと見られている。総額 4200万リンギ(約13億6000万円)にのぼる。
残りの2件は、英領ヴァージン諸島に登記されたアブダビ政府系投資会社「インターナ ショナル・ペトロリアム・インベストメント」がスイス銀行のシンガポール支店を経由し、2013年5月の総選挙直前の選挙活動が佳境の頃の3月、6億2000万ドルと6100万ドルが個別に首相の口座に流れたとされる。