安倍晋三政権は今年5月14日、一連の安全保障関連法制を閣議決定した。その後の記者会見において、安倍首相は冒頭、日本を取り巻く厳しい安全保障環境を指摘し、万一に備え、日米同盟を強化する必要があり、そのため「新たな三要件」による「極めて限定的な集団的自衛権を行使できることにした」と述べている。
しかしながら、与党協議での合意は難航し、野党各党、一部国民世論の中には、依然として、米国の戦争に巻き込まれるとの不安などを理由に、反対論も根強く見られる。
なぜ、いま集団的自衛権の行使が必要なのかについては、昨年7月1日の閣議決定でも、述べられているように、「我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している」との「厳しい現実」がある。
この点を、周辺情勢を踏まえつつ、「厳しい現実」を明確にすることなく、法律論に終始していても、その必要性は理解できないであろう。何よりも、日本を取り巻くバランス・オブ・パワーの激変という事実を直視しなければならない。
急激に悪化している日本の安全保障環境: 高まる中国の脅威
上記の安倍首相の記者会見では、中国は名指しされていない。これは首脳会談などでやや緩和の兆しの見える日中関係への配慮があったのかもしれない。しかし、スクランブル回数は10年前に比べて「実に7倍」に急増していることを、具体例として挙げている。
このスクランブル急増の最大原因は、中国機に対する緊急発進の激増にある。平成21(2009)年以前は、ほぼ年間50回以下であったものが、尖閣諸島周辺の日本領海で中国漁船との接触事案が発生した平成22(2010)年以降急増し、平成25(2013)年には、410回に上り、ロシア機を上回っている。
安倍首相訪米時の4月28日の日米共同記者会見では、中国を念頭に置いた両首脳の発言が何度もみられた。オバマ大統領は冒頭、日米安保条約第五条が、「尖閣諸島も含め、すべての日本の統治する地域に適用される」と言明した。
これに応じて、安倍首相は「いかなる紛争も力の行使ではなく、国際法に基づいて平和的に解決されるべきである」と、わが国の原則的立場を強調している。オバマ大統領は、「中国は、東アジアや東南アジアで力を拡大しようとしているが、そのようなやり方は間違っている」と名指しで非難している。
両首脳は会見の最後に、「中国のいかなる一方的な現状変更の試みにも反対する」と念押しをして、締めくくっている。