ミラー 武者リサーチ、ディレクターのミラー和子です。武者さん、現在の経済と市場を理解するうえで最も基本的な鍵は何か、非常に抽象的な問いですが、なぜそのような問いが必要なのでしょうか。

武者 おそらく、どなたも今のマーケットや世界経済、そして政策の動きに困惑していると思います。これが正しい見解で、こうすればこうなるという定見を、誰も持ち合わせていない。非常に多くの人が異なる意見を言い、一般の方々は様々なオピニオンリーダーの意見を聞いて、益々混乱してしまうということも起こっていると思います。そこで、現在、経済・市場で展開されている最も大事なことは一体何かということを少し私なりに説明してみたいと思います。

 その最大のポイントは、資本のリターンと成長との兼ね合いだと思います。「r=資本のリターン」が「g=成長」よりも大きいという、不等式「r>g」は皆さんよくご存知、大ブームになったトマ・ピケティ氏の議論ですよね。トマ・ピケティ氏は、資本のリターンが著しく高く、一方、成長が低いということによってどんどん格差が拡大していく。このまま格差が拡大していくと、経済は退廃していくので、この格差拡大を是正する政策が必要だ。彼は、資本に対する累進課税を国際的に導入するのが正しいのではないかと言っているわけです。

 確かにそういうことも起こっています。米国ではたった1%の人が圧倒的富を支配しているということで、ニューヨークで「Occupy Wall Street」という運動も起きたわけです。格差論がブームになる現実的な経済情勢というのがあるわけです。

 ならば、それだけで今の経済情勢が理解できるかというと、違います。それは、現在起こっていることの半面です。もう1つ起こっている現実は、成長よりも資本のリターンが低いということです。

 資本のリターンには2通りあります。経済の成長率よりも高い資本のリターン、これを「r1」とします。しかし他方で経済の成長率より低い資本のリターン「r2」ということも起こっているのです。