和歌山県有田郡湯浅町湯浅にある食品卸業「とち亀物産」を訪問した。資本金1000万円、従業員数19名(正社員10名、パートタイマー9名)の零細企業である。有田みかんをはじめとする和歌山の農産品、水産品、加工品などを扱っている。
周知の通り卸売業は成長産業とは言えず、利益率も低く淘汰が進んでいる厳しい業界である。その中で、従来の卸売業にとどまらず、インターネットに商品を提示して直接消費者に売る小売り業への参入を試みる企業が増えている。
しかし、ネット通販はサイトの作り方、商品の見せ方などに多くのノウハウを必要とする。写真で見ていた商品と実際に送られてきた商品とはイメージが違うなどといった問題もある。そのため、卸売業者がネット通販に参入したものの失敗しているところが多いのが現状である。私がかつて指導をしていた菓子卸売業も、ネット通販を手がけて3年近くなるが、赤字の状態が続いているという。
生産者にとっては常識でも、消費者は知らない
そんな中で、今回訪問したとち亀物産は、卸売からネット通販に主力事業を移して成功した企業である。ほとんどの同業者が失敗する中で極めて稀なケースと言っていい。同社が成功できた秘訣を紹介したい。
その最も重要なポイントは、「情報の差を埋める」ことに全力を傾けたことである。生産者が持つ情報と消費者が持つ情報とには大きな隔たりがある。これは、流通業に勤めている人なら誰でも知っている常識だ。
例えば、和歌山のみかん農家は、みかんについて多くの情報を持っており、知識も豊富である。しかし、消費者はみかんについての専門的な知識や情報は乏しい。おいしいみかんとは一体何だろうと問われても、正しく答えられる人は少ないはずだ。