前回(「日米の対中戦略の柱『競合戦略』『費用賦課戦略』とは?」)、これからの日米の対中戦略のあり方について、「競合戦略」と「費用賦課戦略」の2つの概念に注目して、米国の戦略家2人にインタビューした内容をご紹介した。
インタビューの基本的な問題意識は次のようなものである。今後の日米はそれぞれ財政難の結果として、中国の急速な軍事的増強に量的に対抗できなくなる可能性が高く、日米には、東アジア地域でやがて中国よりも劣弱な立場に置かれる現実を見据えた上での戦略構築が求められている。これを前提に、日米はどのような戦略をとっていくべきかという疑問を、米国の戦略家たちに投げかけた。
2回目となる今回では、米国の「戦略予算評価研究所」(CSBA)の関係者へのインタビュー内容をご紹介したい。
CSBAは2010年5月に中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力を打破するための海空戦力による作戦構想、「エアシーバトル(ASB:AirSea Battle)構想」を提言したことで有名なシンクタンクである。その後、ASB構想は国防総省に採用され、公式の報告書も公表されるなど、ASB構想を取り巻く論争は日米双方で広い注目を集めた。CSBAのアイデアはその論争の中核にあったと言える。
今回、取り上げるのは、ASB構想の主要な提唱者たちであるジャン・ヴァン・トル(Jan Van Tol)主任研究員およびマーク・グンジンガー(Mark Gunzinger)主任研究員の2人に対するインタビューである。
ヴァン・トル氏は元海軍大佐で日本に展開していた強襲揚陸艦エセックス(USS Essex)の艦長を勤めた。グンジンガー氏は元空軍大佐で爆撃機パイロットの出身である。いずれも経験豊富な軍出身者であると共に、米国を代表する戦略家にふさわしい極めて知的な人物である。