フクシマ関連のアメリカ取材の報告を続ける。今回は首都ワシントンにある核問題(原子力発電所、核兵器、放射性廃棄物など)のシンクタンク“Institute for Environment and Energy Research”(環境とエネルギー調査研究所=IEER)代表のアージャン・マキジャニ博士のインタビューをお届けする 。
マキジアニ博士は、インド・ボンベイの出身。1972年にカルフォルニア州立大学バークレー校で核融合に関する研究で博士号を取った後、キャピトル大学准教授などを経て1987年から現職にある。
米国でも、日本と同じように、シンクタンクや大学教員など核問題の専門家には「原発肯定・推進」か「否定」かで立ち位置の違いがある。私は、推進派でも否定派でもない中立的な専門家が福島第一原発事故をどう見ているか、聞きたかった。米国で取材先に会うたびに「中立的な専門家はいないだろうか」と尋ねて名前をよく聞いたのがマキジャニ博士だった。文中にも出てくるが、核兵器の原材料であるウラン精製工場周辺での健康被害を調査し、裁判所や報告書で見解を述べる仕事をしたことがある一方、電源開発会社のコンサルタントを務めた経験もある。
(インタビューは2014年4月に行われた)
TMI事故では地表の除染は必要なかった
──福島第一原発事故をどう見ておられますか。アメリカでのスリーマイル島(TMI)原発事故との違いは何でしょうか。
アージャン・マキジャニ博士(以下、敬称略) TMIとフクシマはまったく別のケースとして考えた方が良いでしょう。TMIは放出された放射性物質のほとんどがキセノン、クリプトンなど希ガスでした。ヨウ素131の放出もありましたが、少量でした。キセノンやクリプトンの放出量は大量でしたが、直接的な人体の健康へ影響は、ヨウ素やセシウム、ストロンチウムと比較すると小さいのです。人体に到達する前に大気に霧散してしまうのと、入っても体内にとどまらず、排出されてしまうからです。そんなわけで、TMI事故では、放射性物質の放出も、個人の被曝量も非常に小さかった。だから地表の除染も必要なかったのです。フクシマでは、非常に高濃度に汚染された地域があります。自然放射線量の数十倍、数百倍の濃度の汚染が検出された学校すらあります。TMIではこんなことはなかった。