2020年の東京オリンピックに向けて、東京は建設業を中心に活況を呈している。それに対して地方はほとんど大きなイベントもなく沈滞している。一部では東京だけが盛り上がって、アベノミクス効果が表れてきていると言われるが、東京以外の地方は全くと言っていいほどその効果はない。

 東京一極集中が言われて久しいが、地方経済はいっこうに上向いてこない。小職が地方の国立大学に勤務していた時に、MOT(Management Of Technology:技術経営)というテーマの専門教員を経験したが、地方の国立大学には経営を指導できる人材がほとんど存在しないために、残念ながら失敗に終わっている。

 そもそも日本の大企業は地方の比較的安い人件費を活用して、市や県が開発した工業団地に大規模工場を建設し、そこで生産された製品を都会に流通するというビジネスモデルを形成していた。ところがグローバル化が進むにつれ、さらに安い人件費を求め、中国に進出し、ベトナムに進出するようになった。その結果当然国内の地方工場は空洞化が進み、分社化され独自で経営していかなければならなくなった地方工場は行き詰まった。

 そこに誕生したのがMOTであった。地方の国立大学は工学部や農学部という地域の産業に合った学部が存在するため、従来までの地方の若者は地元の大学で学び、地元の産業に従事するというパターンが少なからずあった。地方の国立大学の工学部を卒業した人の多くは地方の大企業の工場に勤務するというケースだ。工場長は地元の国立大学の工学部出身の人が多く、いままで本社から受注があったのが、減少してきたために、工場長自らが経験のない営業や経営をしなければならなくなったのである。その時、彼らに経営を教えるということが急務となり、MOTが誕生したという背景である。

 ところが、MOTを採用した大学の多くは、工学部が主体となっているため、経営を教える教員がいない。経営学部が主体となっているところはまだ良いが、直接企業に出向いて経営を指導した経験を持つ教員がいないため、机上の空論になりがちとなり、徐々に受講者が減少した。つまり、せっかく地方経済の救世主となるべく誕生したMOTも残念ながら失敗の様相を呈しているのである。