停止している原子力発電所の再稼働が遅れている。九州電力の川内原発(鹿児島県)が原子力規制委員会の安全審査に合格したものの、工事計画の書類提出や規制委によるチェックなどに時間がかかり、10月と見られていた再稼働時期は年明けにずれ込む公算が大きい。

 後続の原発審査も予想以上に時間がかかりそうで、東日本大震災前に54基あった原発のうち来年度末までに動くのは最大13基とも言われる。中長期的にも「運転開始後40年を経た原発は原則廃止する」という2012年の原子炉等規正法改正を厳密に適用すると、震災前31%あった電力の原発依存度は2030年度で15%以下にとどまると資源エネルギー庁が試算している。

資源の乏しい日本の経済発展のためには、原発20%以上必要

澤昭裕(さわ・あきひろ)氏 21世紀政策研究所研究主幹。NPO法人国際環境経済研究所所長。1957年大阪府生まれ。一橋大学経済学部卒業後、通産省(現・経済産業省)入省。資源エネルギー庁資源燃料部政策課長、東京大学先端科学技術研究センター教授などを歴任。著書に『精神論ぬきの電力入門』(新潮新書)など多数。

 電力などエネルギー問題に詳しい元経済産業省官僚の澤昭裕・21世紀政策研究所研究主幹は「資源の乏しい日本の経済発展にとって原発が15%では心もとない。20%以上は必要だ」と強調する。

 だが、今も原発への恐怖心が国民の間に根強い中で、安倍晋三政権は明確な原発推進政策を打ち出していない。これで適切な電力を維持できるのか。

 澤氏は来年末のCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)21と、電気料金値上げが原発再稼働の促進要因になると見る。

 泊原発(北海道)が動かないことから北海道電力が昨年9月の電気料金の値上げから1年足らずで値上げを再申請、関西電力なども再値上げを示唆している。「値上げを呑むか、原発を動かすか」という二者択一に追い込まれつつあることが再稼働を促すというわけだ。

 加えて、地球温暖化を抑止するための国際的な取り決めが、原発再稼働を後押しすると見る澤氏に「原発の行方」を聞いた。

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井本 電力会社やその関連業界では「原発再稼働がこれほど遅れるとは思わなかった」という声が大きいです。

 確かに遅れていますが、私から見れば今の状態は想定(予想)の範囲内です。電力業界では民主党から自民党に政権が移った2012年末に「これで再稼働が進む」と期待が高まりました。でも、僕は「大して変わりませんよ、あまり期待しない方がいいです」と言い続けました。

井本 自民党は「国民の原発恐怖心が強い中で積極政策に転換したら国民の支持が下がる」と危惧している。だから、自民党政権になっても慎重に事を進めるだろうと判断したのですか? 実際、4月に閣議決定したエネルギー基本計画でも「原子力は重要なベースロード電源」とする一方で、中長期的に「可能な限り原発依存度を低減させる」として電源構成比を示さず、「曖昧だ」と批判が出ました。