前回は、トヨタ自動車の「バルブスプリング」に関するリコールが、一般に報道されている以上に重大な内容であり、トヨタの病状の改善はやはり難しく、むしろ深刻さを増していることを示すものであることをお伝えした(トヨタの「バルブスプリング」に何が起きたのか)。
もう1件、JBpressで「トヨタ再建への処方箋」を緊急連載している間に、「レクサスLS」の一部車種に関してリコールが出された。
「比較的低速で走りつつ、ステアリングホイール(ハンドル)をいっぱいまで回してガツンと当たるところまで切り込み、そこから一気に戻すと、ステアリングホイールを中立位置からずれた位置で保持しないと直進にならない」というものだ。
これについても一般のメディアは、その内容を把握した記事を送り出していない(いつものことだが)。私も「トヨタ再建への処方箋」の中でごく簡単に触れただけなので、ここで簡単に整理しておこう。
舵の反応を駐車時は鋭敏に、高速走行時は穏やかに
この問題が出たLSは、トヨタの呼称で「ギア比可変ステアリング(VGRS:Variable Gear Ratio Steering)」を装備している。
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ステアリングホイール(ハンドル)を回すと、その動きを伝えるいくつかの機構を介して車輪(タイヤ)が向きを変える。この両者(ステアリングホイールと車輪)が動く角度の比が「ステアリングギアレシオ」、より正確には「オーバーオール(全体としての)・ステアリングギアレシオ」という。
これを「可変」にした機構、と称しているわけだが、実は、ステアリングホイールの先でその回転を伝える軸の途中に歯車とモーターを組み込み、ドライバーがステアリングホイールを回す動きに、さらに回転を加えて車輪を動かす仕掛け。
つまりドライバーの操作以上に舵の動きを「増幅」するのだが、どのくらい増幅・増速するかを、車速などに応じて制御するのである。
「アダプティブ(制御追加型)ステアリング」とも呼ばれるこの種の仕組みは、BMWが最初に導入した。駐車時など、ごく低速で左右いっぱいまで舵を切る時には増幅量を最大に増やして、ステアリングホイールを回す量を減らし、逆に高速では増幅機能を働かせずに、本来の操舵伝達メカニズムだけで動かし、舵の反応を穏やかにする、といった設定が「定石」になっている。
人間と自動車を切り離してしまう不要な機構
が・・・。私としては「不要」な付加機構だと考えている。
駐車の時にステアリングをグルグル回す操作が少なくて済む、と聞けば、「便利そう・・・」となる。しかし、その状況で1回転半動かしたか、1回転なのかを意識することはほとんどないし、したがって回転角が小さくなったから「便利」だと実感することもほとんどない。