5月8日、理化学研究所は、「STAP細胞論文への研究不正認定に対する小保方晴子さんの不服申し立てにつき、再調査の必要はないとの結論に達した」と記者会見を行った。
マスコミでは、調査に携わった委員にも研究不正があるのでないかと伝えられ、1月末に世紀の大発見と騒がれたこの問題は3カ月を経てなお、連日の盛り上がりを見せている。
確かに理研は問題の多い組織であり、そのことは私自身も他の記事で指摘させていただいている。しかし相対的に見たときには、理研はかなり誠実かつ真面目な組織であると言えるだろう。
今回は、同じく1月半ばに問題が報道されたSIGN研究に関する東大病院と理研を比較してみたい。
不正内容の実態の差
STAP問題は既に再三報道されているが、理研の小保方さんと共著者により発表された、再生医療などへの利用が期待されるSTAP細胞の論文について、論文中の画像が不正に改竄・捏造されたのではないかと指摘されている問題である。
小保方さんが争っているのは、あくまで理研の内規に従って研究の不正が認定されたことであり、現状は労働法的な不利益が科されていないため法律問題になっていない。
したがってSTAP問題には被害者が基本的にいない、あえて言えば研究費を不正に利用された理研が被害者と言えるか、という程度にとどまる。
SIGN研究は東京大学医学部附属病院の血液内科と、同科に事務局を置く研究会組織が主導して行った、白血病治療薬タシグナに関する医師主導の中立的臨床研究に、当該薬の製造元であるノバルティス社が不正に関与していたという事件である。
この研究には22の医療施設が参加し、実際に慢性骨髄性白血病を患っている患者さんに対してアンケートを行ったうえで、一部の患者さんには治療薬の切り替えとタシグナの投薬が行われている。
このようにSIGN研究は「研究に参加した患者さん」という人間を対象とした研究であり、マウスを相手にしていたSTAP問題とは大きな違いがある。
注意したいのは、よりアクティブに「研究に対する不正行為を行った」と考えられるのはSTAP論文の小保方さんの方だということだ。しかしSIGN研究のように実際の患者さんが参加する臨床研究の場合は、パッシブに研究不正を行ってしまったとしても、非常に大きな被害を引き起こす可能性がある。