パソコンと連携できない人にインタビュー調査を行うと、まず楽曲のファイルについての知識がない(CDの中の楽曲がファイル形式であること、CDとiPodのファイル形式が異なっているため変換が必要等)。そのため、パソコンに一度登録しなければいけない理由が根本から理解できていない。
ファイルの形式や取り扱い、変換方法が「分からない」という点で、パソコン利用者とほぼ同じ問題となっている。
パソコンリテラシーが低い日本の中高年層
パソコン、スマホ、iPodなどのリテラシーが海外よりも劣位にあるのは、ほぼ40~50代の中高年である。若年時にパソコンに触れる機会がなかった60代超のシニア層は、各国、一様にリテラシーは低い。特に日本だけが劣位というわけではない。
日本に限らず今の40代超はパソコンが本格普及し始めた1990~95年に、オフィスでパソコン等に触れ始めている。各国に比較して低い水準にあることは、日本ならではの理由があるようだ。
日本では先進国として早期からパソコンが普及したものの、体系的な学習をすることはなかった。企業が独自に開発した汎用性のないシステムや、今はなき専用ワープロ機器などを、原理・構造への理解をすっ飛ばして体で覚えてきた層は、ITの環境変化への対応力をそもそも身につける機会がなかった。
IT業界でよく言われる話だが、アメリカの小売店、零細サービス事業者の中高年経営者や労働者は、自分でパソコンを買い、マニュアルを読んでプリンターをつなぎ、税金をソフトで計算して、さらにはiPodに楽曲をダウンロードできる。しかし、日本の大企業の中間管理職・中高年を見渡すと、自分でマニュアルを読んでセットアップ、インストールできる人は稀である。そういう人たちにとって、XPは時間をかけて体で覚えてきた相棒とも言える存在だった。
言い換えれば、10年を超えて使われてきたXPこそ、彼ら(中高年)を変化から守る防波堤であった。この防波堤が決壊した今、隠れていた低リテラシー問題が、むき出しとなっている。今回のXP更新が呼び起こした意外な波紋と言えるだろう。