日本では、サイバー攻撃の被害について、時折報じられることがある。その多くが、中国を発信源とすると目されている。一般に、サイバー攻撃については、外部に漏れない限り、攻撃を受けて被害を出したことを公表するケースは多くはない。

 したがって、サイバー攻撃の頻度は一般に知られているよりも高く、かつその被害はもっと深刻であると見るべきだろう。

 以下では、中国のサイバー戦についての、考え方や現在のインターネットに対する見方、その最終目的について、張笑容著の『第五空間戦略』(機械工業出版社、2013)に基づき、紹介する。

1 サイバー戦の手法と原則

 中国の上記文献では、米国が見なすサイバー犯罪として、以下の7つの事例を挙げている。

(1)同意なしに行われる個人情報の収集
(2)多くのサイト上でユーザーのネットワーク使用状況を追跡
(3)他のユーザーのシステムに侵入し資料を窃取
(4)ネットワーク使用状況の監視
(5)個人のプライバシーのネットワーク上での暴露
(6)他人を誹謗中傷し名誉を傷つける情報の流布
(7)ジャンクメールの流布

 これらの犯罪行為が列挙されているということは、このような行為が米国その他の国にとって、実害のある迷惑な行為であることを意味している。暗に、サイバー攻撃として取り得る効果的な手法を示唆しているとも見ることができる。

 また、中国が見る米国のサイバー戦の原則として、以下が列挙されている。

(1)作戦領域としての明確化
(2)インターネット部隊の設立
(3)企業との協力を重視
(4)国境を越えた連携を発展
(5)企業の人材の吸収

 これらは米国の原則として列挙されているが、中国は以下に述べるように、米国を現在のサイバー空間の支配者であり、目標としいずれ凌駕すべき国と見ていることから、米国の原則であると同時に、中国のサイバー戦の原則もこれに近いものと見るべきであろう。

 特に、冒頭、サイバー戦空間を作戦領域として明確にすることを挙げている点は注目される。中国は、上記文献の書名にもなっているように、「サイバー空間」を、陸、海、空、宇宙に次ぐ、「第五の作戦空間」ととらえている。

 また、サイバー空間の利用は、将来戦の帰趨を決める重要な作戦であり、そのための専門的サイバー部隊の編成と練成を重視している。

 さらに、サイバー戦に通じた知識、技量を持つ人材、関連機材、ノウハウなどは、軍よりも関連IT企業など民間にあり、それらの人材を軍民一体の体制の下でどのように活用するかが、サイバー戦能力向上のカギを握っていると見ている。そのような視点から、いま再び、毛沢東の「人民戦争」理論に基づく、軍民一体の総力戦態勢強化が、中国でも強調されている。

 この点は、米中両国のみならず、世界的な傾向であり、今後サイバー戦分野では、民間企業の能力、特に人材の活用が各国でますます重視されるようになるであろう。