宮崎県の東国原英夫知事、大阪府の橋下徹知事らタレント知事に限らず、地方自治体の首長が口を開けば必ず言うのは、「もっと地方に権限を!」「もっと地方に財源を!」。「地域主権」を重要政策の1つに掲げる民主党が政権の座に就いたことで、その声は一段と強まっている。

「もっと地方に権限を!」
「もっと地方に財源を!」

 1993年6月の通常国会で衆参両院は「中央集権を問い直し、21世紀にふさわしい地方自治を確立することが急務である」と決議した。これが分権改革の起点だ。

 1999年には地方分権一括法が成立し、国が自治体に一方的にやらせていた「機関委任事務」を廃止。小泉純一郎政権は国から地方への税源移譲、補助金の廃止、地方交付税の見直しを一体的に行う「三位一体改革」を推進し、国の所得税から地方の個人住民税に3兆円を移譲した。さらに、2007~09年には「地方分権改革推進委員会」(丹羽宇一郎委員長)下で、国の出先機関改革を議論した。

地方分権改革推進委員会の委員長を務めた丹羽宇一郎氏

 この間、新聞やテレビなど多くのマスコミは一貫して、財源・権限の移譲を迫る総務省(旧自治省)や全国知事会など地方6団体を「善玉」、これに難色を示す中央省庁を「悪玉」として報道してきた。自治体への権限や財源の移譲が思うように進まないと、新聞紙面には「中央省庁の抵抗」「族議員の反対」といった見出しが躍った。

 しかし、マスコミは何を根拠に「分権は善」と決めつけ、対抗勢力を批判するのだろうか。むやみやたらと分権に突き進めば、そこには、「貧しい県はますます貧しく、国民負担は一段と増大する」悲惨な未来が待ち受けているのに・・・。

富める県はますます豊かに、貧しい県はますます貧しく

マスコミは一貫して、総務省・地方連合を「善玉」として報じてきた(霞が関の総務省が入居する第2合同庁舎)

 総務省や地方6団体は税源移譲を求める論拠として、「国と地方の歳出は4対6なのに、国と地方の税収比率は6対4となっているので、税源を地方に移すことで税収の比率を5対5、将来的に4対6にすべきだ」と主張している。

 確かに2008年度の実績値を見ると、国税収入は45兆8000億円、地方税収入は38兆9000億円だったのに対して、国と地方の歳出は62兆円、88兆5000億円と逆転している。その差額は国庫補助金や交付税で国から地方に配分している。

 地方側の主張は、国が予算配分権限を握っていると地方の財政自主権が高まらないため、できるだけ国・地方の税収比率を使途に近付ける必要があるというものだ。

 実は、国税の比率が高いのにはれっきとした理由がある。税の重要な機能の1つである「富の再配分」を行うためだ。国は全国から集めた税金を1つの財布にまとめた上で、財政力の乏しい団体に補助金や交付税の形で配分し、財源不足を補填しているのだ。

 地方の「財政自主権を高めたい」という主張を丸のみして、国税として集める比率を少なくし地方財源に切り替えれば、人口や企業の多い富裕な自治体にとっては税収が増えてさぞやハッピーだろう。しかし、過疎に苦しみ企業誘致もままならない貧しい自治体は、税収を伸ばす手立てもなければ、「富の再配分」機能によって受け取っていた補助金も減ってしまい、一段と窮乏することになる。