南国新聞 2013年10月3日号
7月のはじめに、「おやおや」と思わせるニュースが中国から流れてきた。高齢の親と別に暮らす子どもに定期的な帰省を義務づけた、改正「高齢者権益保障法」が施行されたというのである。親孝行の義務化である。
マレーシアにはないが、お隣のシンガポールでは1996年には、世界でも珍しい両親扶養法(Maintenance of Parents Act)が制定されている。この法律ができた時、筆者はシンガポールで生活していたのでよく覚えている。
簡単に言えば、子が親を扶養可能であるのにしない場合には、60歳以上で自ら生計を立てられない人、それより若くても病弱な人、または原告が入している老人ホーム等の施設の長が、裁判所に扶養費請求の申し立てができる。
子どもは月払いや一時金での親の生活費を支払わなくてはならない。従わない場合は6カ月以下の禁固、もしくは5000シンガポールドル以下の罰金が科せられるのだ。
7月1日には中国で「高齢者権益保障法」(改正)が早速適用され、訴訟の判決が江蘇省無錫市であり、1人暮らしの自分の面倒と、家賃や医療費の負担を娘夫婦に求めた77歳の女性の訴えが認められたという。
日本に劣らず急速に少子高齢化が進むシンガポールでは、国に頼らず、親の面倒は子が見ろというメッセージを両親扶養法を通じて国民に伝えたいのである。マレーシア人の平均寿命もシンガポールや日本ほどではないが上昇中で、そう遠くない将来男女ともに80歳を超えるに違いない。
ちなみに、統計局が2010年のデータを元に集計したマレーシアの平均寿命 は華人系女性 79.8歳 、インド系女性 76.2歳 、マレー系女性 75.3歳 。華人系男性 は74.4歳 、マレー系男性 70.5歳 、インド系男性 68.0歳 となっている。
だから、マレーシアもいずれ、両親扶養法とか「高齢者権益保障法」といった法律で親孝行を子どもに義務づけるようになるかと言えば、そうはならないと想像する。外から見る限り、マレーシアでは民族の差はあっても、総じてみんな親と子どもの結びつきは固い。
華人などは社会人になっても、地方出身の若者はともあれ、都市生活者は結婚までは一般に親と同居している。それに結婚しない人が増加中だから、親と同居を続ける人は増えこそすれ減ることはないだろうと思う。
たしかに、マレーシアにも老人ホームがあり諸事情で入所して世話になっている高齢者もいるが、数はそうは多くないようだ。
高齢の親をジョホール州の料金の安い老人ホームや病院に入れて、以後支払いをやめ連絡を絶つシンガポール人の話が以前はたびたびニュースになっていた。マレーシアではまだそうした話はゼロではないが極めて少ない。
注:コラム、KL生活手帳(22)、当地では話題にならない「親孝行の義務」より
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