北米報知 2013年10月3日41号
時間を経て消えゆく記憶、生の声。劣化する貴重な歴史資料。テクノロジーの発展の中で日系社会で大きな役割を果たしているデジタル保存事業。当地を軸に北米へ活動を広げる非営利団体「デンショー」は日系団体という枠を超え、同分野におけるパイオニアとして未来に大きな価値を残すプロジェクトに取り組んでいる。
第二次世界大戦の激動時期を過ごした一世はほぼ去り、二世も高齢化を迎えた1996年、これまでにない新たなプロジェクトが立ち上がった。
マイクロソフト創世記の退職者たちが、自らの技術、知識、経験を利用し開始された日系史のデジタル保存化計画だ。
デンショーの立ち上げ前、オキ財団のスコット・オキさんら日系関係者で日系史保存の方法が探られてきた。エグゼクティブディレクターのトム・イケダ(57)さんは、発足人の1人となったオキさんの確信にあったのが、コンピューターを使ったインタビューのデジタル化とその可能性だったと明かす。
当時は家庭にコンピューターはほとんどなく、ウェブサイトも存在しなかった。過去に例を見ない方法だった。マイクロソフトでマルチメディア出版事業を手がけていたイケダさんも立ち上げ事業に参加したが、当時はデータ保存量も小さく、高価な設備投資に予算も膨らんだという。だが将来の技術革新や価格低下を見込んだ判断は間違っていなかった。
単なる移民史ではないとの思いもあった。「日系人の収容経験がなければデンショーは生まれていませんでした」とイケダさんは語る。
父親は軍事情報部(MIS)の訓練を受け、義理の父親は徴兵拒否者だった。
第442連隊戦闘団に所属し欧州戦線で戦死した親戚もあり、三世として日系社会にあった「語られていない」多くのストーリーに囲まれて育ってきた。
インタビューの1人目はMISのハービー・ワタナベさん。地元日系社会の復員軍人、徴兵拒否者、収容所経験者、帰米二世――。性別を問わず幅広いストーリーをビデオに収めてきた。
「リドレス(戦後補償)活動を終えてもコミュニティーには、悲しく痛々しい経験は思い出したくない、話したくないという強い思いが依然としてありました。最初は難しかったですが、一度始めると教育者たちを含めコミュニティー外で大きな反響がありました。日系社会でもプロジェクトへの理解が深まる一因になった思います」