各党のマニフェストが出揃い、参院選挙が迫ってきました。

 現場に立つ医師として私が一番気になることは、医師の勤務環境の改善につながるマニフェストがあったのかどうかです。

 当直明けの休みなしの36時間連続勤務をはじめとする過酷な労働は、過労死基準を大幅に超えており、医療崩壊の元凶となっています。各党が今回の選挙に向けて打ち出した政策で、その状況は改善されるのでしょうか?

医学部の新設は「百害あって一利なし」

 主要各党が掲げる医療政策を見ていきましょう。

 民主党は、「診療報酬の引き上げに、引き続き取り組みます」とマニフェストに記載しました。「引き上げ」ということにはしていますが、診療報酬を経済協力開発機構(OECD)並みに引き上げるとしていた前回に比べると、トーンダウンしたのは間違いないでしょう。

 その一方で「地域の医師不足解消に向けて、医師を1.5倍に増やすことを目標に、医学部学生を増やします」として、「医師数1.5倍」の数値目標を維持しました。自民党などの「医学部定員増員」とは異なり、「医学部新設」を行う方向です。

 しかし現状では、医学部新設は「百害あって一利なし」です(「医師を増やせば医療崩壊は本当に解決するのか」も参照ください)。医学部の新設には1校当たり100億円以上もの莫大な費用がかかるとされています。私は、限られた財源の下では既存医学部の定員を増加するのがコストパフォーマンスに優れた選択だと思います。

 民主党の医療マニフェストにはこれ以外に「後期高齢者医療制度の廃止」と「介護ヘルパーの給与引き上げ」が記載されています。

 前回の「医師の当直を夜間勤務に改めます」「医局員を常勤雇用とし、医療現場での労働基準法の遵守を徹底します」などの文言はマニフェストから消え失せました。

 医学部の新設に数百億円を使う前に、すべきことがたくさんあるような気がする医療従事者は私だけでしょうか?

自民党は問題点を挙げて検討するだけ?

 自民党は「診療報酬の大幅な引き上げ」とともに、医師の偏在の是正のために1000人単位の「県境なき医師団」結成を打ち出しました。これは、「産科や小児科、救急医療などの診療科や地方において医師不足による医療崩壊を招いている地域に随時医師を派遣する」という制度です。

 実行する上では、交通費などの医師派遣に伴うコストと、この医師団に参加した人たちのその後のキャリアサポートができるかがネックになると思われます。

 でも、この政策が実行され、1000人単位もの医師が日常的に全国各地を行ったり来たりすることになったとします。すると、この制度なしでは生涯一緒に仕事をすることがなかったはずの医師たちが出会うことになります。

 いろんな地方の異なる学閥の医師たちが互いの医療技術を見せ合い、切磋琢磨することになるのです。この政策は「医師の循環」をうながし、それにより日本全体の医療の質を向上させるという大きな効果も期待できるような気もします。