大阪府堺市にある機械部品メーカー、太陽パーツには面白い表彰制度がある。その名は「大失敗賞」。「前向きな挑戦をしたにもかかわらず結果的に失敗してしまった人」を表彰する制度である。
この賞をもらいたいと思う社員はいないだろう。みんなの前で仕事上の失敗を大々的に発表され「表彰」されてしまうのだ。ただでさえ失敗して落ち込んでいるのに、よけいに恥ずかしさが増して、会社に出てこられなくなるのではないかと心配してしまう。
しかし意外なことに、大失敗賞には社員のモチベーションを高める効果があるという。この賞をもらった社員は「前向きな挑戦」を認めてもらったことで一段と奮起し、翌年に社長賞をもらうケースが少なくないそうだ。社内の雰囲気にも好影響を与えている。大失敗賞の表彰を始めてから、失敗をおそれずに挑戦する風土が会社全体に芽生えてきた。
『表彰制度 会社を変える最強のモチベーション戦略』(太田肇、日本表彰研究所著、東洋経済新報社)には、各社のこうしたユニークな表彰制度が紹介されている。著者の太田肇氏によれば、表彰制度には社員のモチベーションを高めたり組織力を高める効果があるが、日本の会社では十分に活用されていないという。「いまこそ表彰制度の力を見直すべきだ」と唱える太田氏に、表彰制度の意義や効果について聞いた。
「制度」だから大っぴらに社員を褒められる
──なぜ、いまこそ「表彰制度」なのですか。
太田肇氏(以下、敬称略) まず働いている個人の側から見ますと、日本は経済的に豊かな社会になってきましたので、もうなかなかお金では動機づけられなくなったという点が挙げられます。
マズロー流に言うと、人間は衣食住に関わる低次元の欲求が満たされてくると、周りとの良好な人間関係や、周りから認められることを求めるようになります。社員の求めるものの比重が物質的なものよりも精神的なものに移ってきているということです。