位置情報データに関しては、まず、位置ゲーム利用者のパターン化された日常の移動を、すべて「ノイズ」として排除する。つまり、利用者が訪れた場所の中から自宅と勤務先、固定した取引先やいつも行くスーパーなどを排除すると、「非日常の移動」、つまり「旅行」が抽出されるという仕組みだ。

瀬戸内海の芸術祭で旅行客はどの島を訪れるのか

 加藤さんによれば、新たな観光客を呼び込むだけでなく、いかに長く滞在してもらうかということも地方にとっての課題だと話す。

 また、国内人口が頭打ちとなった今、シェアの奪い合いを繰り返すだけでは、日本全体の観光需要に変化は生まれない。地方にとっては、「観光に来てくれた旅行者」に、いかに満足度の高い体験を提供し、リピーターになってもらえるかが重要なのだ。

 そのために必要なのは、「仮説」と「検証」だと話す。例えば、旅行者が必ず立ち寄るポイントが複数あるとするなら、その間を結ぶ周遊バスを運行してみる。そうすれば、より利便性が増して、長期滞在に結び付くのではないかという発想だ。実際の状況に応じた仮説を立て、検証を行うことが、これからの地域にとっての課題となるだろう。そのとき、もし裏付けとなるデータがそろっていれば、仮説と検証も、スピード感を持って行える。

 こうした分析がさらなる地域活性化に貢献できるよう、加藤さんは今後、ビッグデータ分析による旅行者分析研究を発展させていく予定だ。現在、今期開催されている「瀬戸内国際芸術祭2013」をテーマに検討している。

 瀬戸内海に浮かぶ直島は、これまで数多くのアートイベントを実施し、アートの島として知られている。今年の夏は、直島のほかに小豆島、豊島など11の島が芸術祭に参加する。直島単体でなく他の島も周遊してもらい、よりスケールの大きな瀬戸内のアートを感じてもらえているかどうかなど、周遊実態を分析する。

 「例えば今回のデータを用いれば、100人のうち直島を訪れたのが何人、小豆島が何人、豊島が何人、と実態が把握できます。仮に小豆島が1人しかいなかった場合、これを10人にするにはどうしたらよいか? という議論の土台ができるわけです」(加藤さん)

 収集するデータを定めて、繰り返し定点観測すれば、施策の成果を検証することもできる。「今よりも正確に、早くPDCAサイクルを回すことができ、観光地に『正のスパイラル』を生み出せるのではないか」(同)と、さらなる展開の可能性を語る。

 ビッグデータの活用で、地域振興のあり方が大きく変わるかもしれない。時代に即した新たな手法によって地域が賑わうことを期待したい。