かつては、旅行会社が売れ筋の旅行商品パッケージを作り、団体で観光する姿が一般的であった。しかし今では、インターネットでの予約システムの充実や、昨今話題のLCC(格安航空会社)などの登場により、個人で自由に旅をするスタイルが定着しつつある。

個人旅行の比率は、同社比で約9割にも及ぶ
(出所:リクルートライフスタイル じゃらんリサーチセンター)

 かつてのように、団体やパッケージ商品で同じ場所に移動すれば、旅行者のニーズは把握しやすい。しかし、個人旅行者が増えると、目的地や旅行そのものの理由が多様化し、ニーズも分散されるため、実態が見えにくくなる。旅行者がどのように目的地、宿泊施設、交通手段を選んでいるのか、といった選択の過程や実際の行動が捉えられず、「測定できないものはマネジメントできない」ということになる。結果的には、旅行者の細かなニーズを補足できず、上位の定番商品(全国的に名の通った観光地など)のみが旅行のパッケージ商品として売り出されていくというわけだ。

データがあれば実証的に仮説を立て検証できる

 パック旅行利用者に加え、個人で動き回る旅行者の実際の行動を、なんとか「見える化」できないか。そこで、加藤さんが注目したのが、旅行者の「宿泊履歴」と「位置情報」だ。

 宿泊履歴は、リクルートの自社媒体である「じゃらんnet」の宿泊データを、位置情報は、オンラインゲームの開発会社、コロプラが提供する全国300万人以上の会員数を持つ位置ゲームの位置情報を、個人属性が特定されないよう統計処理して分析。位置ゲームのロケーションデータは、利用者が生活の中で実際に訪れた場所が記録されている。これらのデータを組み合わせることで、居住先と宿泊先、宿泊数と行動範囲など、様々な項目の関連性が見えてくるのだ。

 例えば、2012年夏に南関東から北海道に向かった旅行者のうち、1泊しかしていない観光客の行動範囲は、千歳空港と札幌市周辺に限定されていることが分かった。人気の旭山動物園でさえ、連泊という時間的余裕がないとなかなか足を向けないことが、データによって明らかになったのである。

1泊だけの宿泊者(上)と連泊した宿泊者(下)の行動範囲の違い。宿泊数が多くなると、行動エリアも広くなることが分かる
(出所:リクルートライフスタイル じゃらんリサーチセンター)