中国政府がついに人民元の切り上げへと動き始めた。「ついに」と書くのは米国や欧州の各国が中国人民元の交換レートが不当に低いと苦情を述べるようになって久しいからである。

 中国の中央銀行である中国人民銀行は6月19日、「人民元相場の弾力性を高める」という声明を出した。それまでの人民元の対ドル固定をやめて、市場の実勢を反映するレートへと切り上げを認めていく、という趣旨の声明として受け取られた。

 これを受けて、21日の上海外国為替市場では人民元は1ドル=6.7976元まで上がり、2005年7月以来の最高値を記録した。

 しかしこれまで長い年月、欧米からの強い圧力をものともせず、人民元の対ドル固定を堅持してきた中国政府がなぜここにきて、このタイミングで重大な方針の修正へと踏み切ったのだろう。

 中国が今後自国通貨の対外レートを実際にどこまで引き上げていくのかも、今回の方針表明の動機によって展望が変わってくる。

制裁措置を取りかねないところまで態度硬化した米国議会

 当然、推測されるのは、26日からカナダで始まるG20(20カ国・地域首脳会議)への対策である。中国がこの会議で各国からの人民元の切り上げを求める強い声にさらされることは当然視されていた。中国側はその圧力をかわすために先手を打ったのだとも言えよう。

 だが、それよりも大きな要因は米国側での官民の態度硬化のようである。

 米国内では最近、中国の人民元切り上げを求める要求が特に高まっていた。その要求は米国議会では明確に中国に対する経済面での強い圧力から威迫にまで発展していた。

 中国がそれでもなお米側の求めに従わない場合は、米国議会は中国に直接の被害を与える制裁措置を取りかねないところまで態度を硬化させていたのである。

 しかもその背景には、経済以外の分野での米中関係の冷却という実態が存在する。

 こうした米国の強固な姿勢は中国の人民元切り上げの行方を見るうえでも、米中関係全体の展望を考えるうえでも、極めて重要な要素である。日本にとっても、中国の影響を占ううえで米国の対中姿勢は巨大な要因となる。

中国の通貨レート操作で米国の失業が増加?

 米国議会は中国に対してこの数年一貫して「人民元為替レートが当局の操作により経済実勢から見れば不当に低く抑えられている」と非難してきた。その非難がこのところ特に強くなったわけだ。

 この6月9日に議会で開かれた公聴会でも、大物の上院議員3人が相次いで中国当局に対し人民元切り上げを激しく迫っていた。議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」が開いた「中国とWTO(世界貿易機関)」に関する公聴会だった。