英エコノミスト・グループは5月19日に東京で、「ベルウェザー・シリーズ・ジャパン──アジア太平洋における金融の未来像」と題するカンファレンスを実施した。激変する世界の金融とアジアにおける未来像が熱心に議論された。

 その中から興味深いテーマをいくつか選んで紹介する。第1回は、元財務大臣で、たちあがれ日本共同代表の与謝野馨氏のインタビューをお送りした。

 第2回はアジアの金融アーキテクチャーで日本が占める位置について、公的金融機関の立場から、日本政策金融公庫副総裁で国際協力銀行経営責任者の渡辺博史氏の基調講演をお送りする。

アジアの需要をいかに取り込むか。それが日本経済の課題

左からエコノミストのグラハム・デイビス氏、日本政策金融公庫副総裁の渡辺博史氏、三菱UFJフィナンシャル・グループ会長の玉腰良介氏、三井住友フィナンシャルグループ社長の北山禎介氏(写真提供:エコノミスト・カンファレンス)

 我が国の経済的プレゼンスを維持していくために、目下、国や産業界が重視している課題は、アジア諸国の需要をいかに日本の産業や経済に取り込んでいくかということです。

 アジアのサプライチェーンが形成された過去30年ほどの間、日本はずっとトップを走っていました。

 しかしここにきて、ほかの国々が足取りを速めている。アジアの需要全体を取り込むには、従来の我が国の立ち位置、存在基盤を保つ必要があります。

 そこでカギとなるのは、まずグランドデザインを描きうる構想力、いわばソフト面の実力です。40億人に上るBOP(貧困層)と呼ばれる方々の需要を意識した、将来的な構想を練る必要があります。

 それにも増して重要なのは、基準認証への取り組み。世界的な基準を作る営みを先導できれば、自国経済に有利な状況を作れます。

 従来、日本の強みは、精密機械をはじめとした品質の高い生産財の提供、あるいはナノテクノロジーに代表される素材技術などにありました。当分は他国に凌駕されることのない、それらの得意分野を生かして戦っていくのも1つの道です。

 一方で部品の提供、組み立てといった中間のプロセスについては、品質への評価は高いものの価格もまた高いという弱みがあります。そうしたことも踏まえて、アジア全体のサプライチェーンの中で日本が何をすべきかを考えると、自ずとファイナンスというテーマが浮上します。

ドル調達、ダイレクトスワップなど貿易金融の支援を

渡辺 博史(わたなべ・ひろし)氏
日本政策金融公庫副総裁、国際協力銀行経営責任者(写真提供:エコノミスト・カンファレンス)

 前提として、アジアのサプライチェーンはこの先、2つに分かれる可能性があることを押さえておく必要があります。

 1つは日本と韓国をトップに東南アジア諸国連合(ASEAN)、南アジア諸国が連なるもの。もう1つは中国がすべて自国で賄うものです。

 中国は近年、従来であれば海外からの輸入に頼っていたものを、国内で調達する傾向を強めています。アジアというエリア全体の効率という意味ではあまり歓迎できないことですが、そのまま独自のサプライチェーンを築くかもしれないということです。