エコノミスト・カンファレンスは、去る4月17日、東京で「ジャパン・サミット2014:2020年に向けた日本の転換」を開催。220人を超える参加者を集め、日本が直面する課題について各分野の専門家による討議が行われた。その中から3つのセッションをピックアップし、今日から3日連続でリポートをお送りする。

 第1回は、『日本の外交戦略:緊張関係がもたらす影響』と題されたセッション。登壇者は、内閣官房参与の谷口智彦氏、外交政策研究所代表・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦氏、日本再建イニシアティブ理事長の船橋洋一氏。司会はエコノミスト誌アジアエディターのドミニク・ジーグラー氏。

バルカン化する北東アジア、緊張高まる南シナ海と米国の戦略

司会 米国が東アジア地域において、どれくらい安全保障にコミットするのか不安視する声もありますが、船橋さんは現状をどう見ていらっしゃいますか。

船橋洋一氏(日本再建イニシアティブ理事長)(撮影:前田せいめい、以下同)

船橋 米国は、いま世界から退却しつつあるのではないかという受け取られ方が広がっています。背景の1つとしてはウクライナの問題があり、またシリアやリビアも同じで、米国は軍事力を行使できない状況にあると。そこを突けということで、ロシアが間隙を縫ってああいうギャンブルに出た。

 アジアでも同じような危険性があるという見方があります。ただ、私はアジアは少し違うと思います。オランダ・ハーグでオバマ大統領が日米韓の首脳会談を、相当強い意志と働きかけによって実現させたということ一つを取ってみても、米国はアジアにおけるプレゼンスを継続していくという意志の表れだと思います。

 逆に言うと、いまそれだけ北東アジア、南シナ海、東シナ海は非常に深刻な状況にあると米国は認識しているということだと思います。それは単に領土問題、歴史問題ということだけでなく、さらにその先といいますか、それと併せて戦略問題があるということだと思います。

 それは一言でいうと、1つは朝鮮半島を中心として北東アジアのバルカン化現象というのが起こっていること。領土、歴史、戦略について共通の理解、共通の利害、共通のビジョンというのをなかなか見出せない。秩序ビジョンというのを思い描けないというのが問題です。

 もう1つは、尖閣問題、あるいは南シナ海における中国とASEAN(東南アジア諸国連合)諸国との激しい対立、紛争。これは、中国が少なくとも第1列島線まで中国の海にしようという、海に対する新たな戦略的な意思というのを非常に明確にしてきたというところから起こる大きな海洋地政学的な葛藤だと思います。

 その状況を米国は認識しつつある。ですから、米国のアジアに対するリバランスは今後さらに強まってくると期待しています。

谷口 船橋さんがおっしゃったことを言い換えると、欧州はランドスケープ、アジアはシースケープを考えなければならないという空間的な違いがあると思います。

 米国は第2次世界大戦以来、どのようにしてその力を獲得するに至ったかというと、アジアではもっぱらシースケープによってです。はじめは日本相手の戦争、次は朝鮮半島、そしてベトナムというように。