エコノミスト・カンファレンスは、東京で第4回目となる「ベルウェザー・シリーズ 日本~成長の糧として:アジア金融の挑戦」を5月30日に開催した。

 欧州、中国をはじめとしたグローバル金融の動向と日本への影響、アベノミクスで注目される日本経済の先行きなどについて、金融セクターや学界などの有識者による議論が交わされた。その中から3つのセッションをピックアップし、今日から3日連続でリポートをお送りする。

 第1回は、『シナリオ検証:日本に迫る“もしも”の近未来』と題されたセッション。登壇者は、JPモルガン証券 マネジングディレクターのイェスパー・コール氏、メリルリンチ日本証券 調査部 銀行セクター担当アナリストの大槻奈々氏。司会はエコノミスト誌アジア経済ディレクターのサイモン・コックス氏。

日銀のインフレターゲット2%がオーバーシュートしてしまったら?

コックス このセッションでは、日本経済に影響を与える要素を3つ選び、それぞれどのようなシナリオが考えられるかを議論します。

 まずは、日銀の黒田(東彦)総裁が2%のインフレターゲットを達成し、さらにそのインフレが上がり続けてオーバーシュートした場合です。今回は新しい試みとして、各テーブルにお座りの参加者の方々に、それぞれ財務省、年金生活者、労働組合といった立場に成り代わってまとめた意見を提出していただきました。

 まず財務省の立場からですが、オーバーシュートが穏やかなもの、つまりインフレ率が2%より少し上であるということであれば大丈夫、財務省としては何もしないという意見が出ています。ただし、インフレ率がそれ以上ならば増税し、そして支出をカットすると。

メリルリンチ日本証券 調査部 銀行セクター担当アナリストの大槻奈々氏(撮影:前田せいめい、以下同)

大槻 財務省としてはそういうことになると思いますが、物価が上昇して、増税もあるという時に、どれだけ世論をコントロールして政治的に安定を保てるかというところの勝負になると思います。

コックス 年金生活者の立場からは、インデックス運用をする、また、例えば豪ドルなどの外貨や金などに分散するという意見が出ています。

 私が興味深いのは、年金生活者が貯蓄を増やすか減らすかということです。インフレ率が上がるならば、今後物価が上がる前に使ったほうがいいと思うかもしれない。その一方で、年金が減っていくので、貯めておいたほうがよいと思うかもしれない。

 たとえば、5%のインフレになった時に、日本の年金生活者はどういう反応をするでしょうか。