船橋 翌年の86年、中曽根さんは靖国参拝をやめました。当初は行くと言っていた。その時に国会の答弁で、中曽根さんはこう言っています。
もし自分がまた行って、近隣諸国と関係が非常に悪化し、日本に対する憎しみなどが出てくるようなことになった時に、尊い命を落とした英霊たちがそれを喜ぶだろうか、彼らは平和を願って死んでいったに違いない、その英霊の気持ちを思う時、自分はもう行くのをやめたと。
これは戦後日本の保守党の政治家の本当の知恵だったと思います。自民党はこの知恵を継承してほしいというのが私の願いです。
谷口 私にとっての靖国神社の問題は、もう少し別なところにあります。
それは安倍晋三という人物が、戦時中の史観をそのまま正しいと思う人間なのか、日本の戦時中の行為をすべて丸ごと正しいと思っている人間なのか、この先日本は軍備をどんどん強くして近隣諸国に軍事力にものを言わせるような国にするつもりなのか、この3つの問いに対する答えは、いずれも「ノー」です。
アジアにとって何が問題になるかといえば、すぐれて中国で、そしてやや副次的ですが韓国です。それ以外の国は、まあ心配しながら見ているというのがだいたいではないでしょうか。
それでは中国は、日本の総理大臣が靖国に行くのをやめましたと、きっぱりと宣言したとして、態度を改めてくれるかというと、そこが私は2014年の中国と1980年前後の中国の大きな違いではないかと思います。
今の中国は、日中蜜月時代の中国とはまったくの別物

宮家 1980年代の日中関係は本当によかったんです。北京の日本大使公邸で中国共産党の総書記が天ぷらを食べるくらい仲がよかった。しかし、あの時代はもう終わってしまったんです。
天安門事件が89年に起きて、それにもかかわらず日本は中国に対する制裁を最初にやめるべきだと主張し、そして中国の国づくりをそれなりに支えてきたつもりだった。
しかし、90年代に何が起きたかといえば、日本を批判する博物館がどんどんできて、2000年を越えると、新しい軍事戦略、新たな歴史的使命という言葉で言われる人民解放軍の軍事戦略ができて、さらに尖閣にも脅威がおよぶに至っている。
もちろん私だって80年代に戻りたいです。私はかつて日中友好青年の1人でしたから。しかし、80年代の日中関係と2014年の日中関係はあまりにも変わってしまった。2014年と80年代を単純に比較することは間違いだと私は思います。
船橋 靖国に総理が行かないからといって、中国の対日攻勢は変わらないというのは、たぶんそうだろうと思います。民主党政権の3年3カ月、首相が3人いましたが、誰も靖国神社に行っていません。この時に尖閣問題が一番激しくなった。日中が戦後最悪の状態になったのは民主党政権時代です。
ですから、靖国に行かないからといって日中関係がよくなるということはない。私はそんなことを言っていないし、思ってもいません。