防衛産業は変化が少なく、コストダウンの意識があまりない分野です。だからこそチャンスがあります。例えば、大きな塊から小さな部品を削り出していたものを、『鋳物を作って削る方が安いですよ』と私が言うと、発注側は『でも鋳物は内部欠陥が怖いよね』と返してきます。このとき、私は自費で鋳物製品を作って『これで調べてみてください』と持っていくのです」。こうして細貝社長は顧客の信頼を得たという。
在庫が多いので、急な発注にも即座に応えることができる。社長の人柄の良さと、誠実な営業努力で大手企業の顧客を次々に獲得し、大手企業になくてはならない協力企業になることに成功する。それからも新しい設備投資を行い、人材を育成して、大田地域でも突出した優良工場となった。
積み増した在庫品が競争力に
「最新の工作機械を導入して設備投資を充実させれば日本のものづくりが生き残っていけるかといったら、必ずしもそうではありません。人が集まり、そして道具を使う若い人に、どう成長していってもらえるかを考えなければならない。そのとき、働きやすい環境があると、会社に愛着を持ってもらうことができ、忠誠心も芽生えて、自分から成長しようと努力をしてくれます。
最新の設備と働きやすい環境づくりは、経営者としては社員を成長させるための投資です。社員教育では外部の知識を取り入れます。技術を熟知しているエース級の社員が講師をすると、中小企業にとっては生産性が下がることになり、負担が大きい。そのため、毎週末に大手企業で長年の実績がある技術者を招いて、道場のような形で教育の場を持っています。社員はその週に出てきた疑問点を、週末の教育の場で解消できます。そこで得た知識を翌週からの業務に生かしていくのです」
マテリアルには、金属加工だけではなく、材料販売という強い力がある。
「一般の下請け業者は材料を安くすることができません。しかし、マテリアルは創業時から、毎年の経常利益を在庫品積み増しに変えていました(トヨタ方式と正反対です)。そこで、原価を極限まで抑えて高速回転の専用機で加工する、原価削減と短納期を組み合わせる経営ができるように工場を変革していきました。
一般の工場は材料を調達するのに最低でも丸一日かかります。しかし我々には在庫があります。これは大きなアドバンテージです」
「顧客に喜ばれると感動するのです」
マテリアルは大田で生き残る工場としての経営革新の努力が評価され、2010年の第8回「勇気ある経営大賞」(東京商工会議所主催)優秀賞を受賞した。2008年には大田区「優工場」の最優秀賞にあたる「総合部門」で表彰されている。2011年には航空、宇宙、防衛産業の品質マネジメント規格である「JISQ9100」を取得して将来を展望している。
「なぜ、ものづくりを続けているのか。私は顧客に喜ばれると感動するのです。顧客のピンチがチャンスに変わり、『次もお願いします』という言葉が社交辞令ではなく本当に次の仕事が来るとき、何にも替えられないくらいに嬉しいのです」
細貝社長は、大田区の町工場が力を合わせて開発したボブスレーのそりが、冬季オリンピックの舞台で、日本代表チームを乗せて滑走する風景を思い描いている。