ボストンでの爆破テロが発生し世界を驚かせた。幸い日本人の被害はなかったが、今年1月にはアルジェリアで人質拘束事件が起こり、日本人10人を含む多数の死者が出た。
最近は世界的にテロ事件や銃撃事件が多発し、日本人が巻き込まれることも多い。また、PM2.5の飛散、化学工場の爆発、放射能漏れ、鳥インフルエンザウイルスなど、有害物質などの拡散が深刻な汚染を巻き起こすケースも増えている。
これらの危機から、いざという時に自らと家族や従業員の安全をどのようにして守るかについて、一人ひとりが危機管理の具体的方法を知っておく必要がある。
1 どう自分の身を守るか
ア 無差別銃撃に巻き込まれた場合にどう身を守るか
銃が厳しく規制されている日本では、銃犯罪は少ない。しかしそれでも、近年は国内に銃が密輸入され、ときどき銃撃が発生するなど、増加傾向にある。また国外で銃犯罪や銃を使ったテロ、暴動などに巻き込まれる危険性も増えている。ここでは、万一銃撃に巻き込まれ、狙われそうになった場合に身を守る方法について紹介する。
人間は、平常の心理状態から、緊急時には別の心理状態になることが、心理学や生理学の研究により明らかになっている。
一般に緊急時にはアドレナリンの分泌が高まり、脈拍が上がり汗をかき、瞳孔も拡張し、視野は狭く音は聞こえなくなり、時間経過が長く感じられるようになる。これらはすべて危機への対応力を向上させるための、人体の本能的な生理的変化である。
しかしこのような状態でも、鼻から深く呼吸をして一度息を止め、静かに口から細く長く息を吐くという動作を数回繰り返すことにより、神経の興奮を鎮めて冷静さを取り戻すことができる。特に、吸った後一度息を止めることが大事である。
そのようにして平静状態を取り戻せれば、通常の判断力も回復する。危機に直面したら、まず平常の心理状態を取り戻し、冷静に状況を判断することが、身を守るための第一条件である。
平静さを回復したら、次には自らの身を守るための行動を取らねばならない。護身のために取るべき行動は、「避ける」「拒む」「防ぐ」という3段階である。
最初に取るべき行動は、まず「避ける」ことである。いきなり銃撃などの緊急事態に巻き込まれたら、冷静さを保ち、逃げ口がないかをまず探して、そこから屋外などの安全な所に逃避せよということである。
火災などでも同じだが、人々は近くの出口のみに殺到して、別の出口があることを忘れ、また探そうともしない。その出口をふさがれるとパニックに陥り、その場に凍りついてしまう。
そうなると行動の自由を失い、銃撃、焼死などに追い込まれてしまう。パニックに巻き込まれず冷静に広くあたりを見回し、窓その他の逃げ口を探せ。そうして、安全な所に逃げることをまず試み、危険からすみやかに遠ざかれということである。
次は「拒む」ことである。もし逃げられなければ、銃を持った犯人が自分に接近する経路は何かを予想し、その経路上に、何でもいいから障害物を置き、犯人の接近を拒否せよということである。
自分がある部屋に逃げ込んだとしても、単に戸を閉めるだけではなく、鍵をかけ、内側から家具などで侵入を阻止するように何重にも防がねばならない。こうしておくと犯人は簡単には侵入できないことを知り、あきらめて他のより侵入容易な場所にいる目標を狙うことになる。
それでもどうしても犯人に襲われた場合には、自から「防ぐ」ことが必要になる。どうしても犯人と直接対決することになった場合には、敢然と戦い自らを防衛しなければならない。
その場合に最も大事なことは、銃を何らかの方法で奪うか無力化することである。銃を持つ手を押さえるか持ち上げて、銃口を逸らすか、銃を振り落とすことが最も効果的である。
その場合には、手元のゴルフクラブ、バット、はさみ、その他何でも武器として利用できるものは利用すること。以上が護身のための3段階の行動である。
最後に、仮に銃で撃たれたとしても瞬時に命を失うことは稀である。たとえ撃たれても、諦めずに最大限に「避ける」「拒む」「防ぐ」の実行に努めれば、生存できる確率は高くなる。
実際の統計データーでも、そのことが立証されている。最後まで諦めずに対応行動を取ることが、生き延びるために最も大事な点である。
イ 近年の脅威度の高いテロの特色
最近の諸外国でのテロはたいへん高度化している。その実態について、2008年にインドのムンバイで起こった同時多発テロなどから、次のような特色が挙げられる。
脅威度の高いテロには、
(1)いくつかの小グループによる分散同時多発テロであること
(2)大量の弾薬、火器、爆薬、ロケット弾などを保有し重武装であること
(3)綿密な計画に基づき実行され、事前に訓練を行っていること
(4)統制指揮・通信組織が確立され、
(5)コンピューター、GPS、暗視装置などのハイテク装備を持っていること
などの特色がある。
今は世界的にどの国の軍も特殊部隊の強化に努めている。ウサマ・ビンラディン殺害でも米海軍特殊部隊が使われた。テロに対する戦いなどで、特殊部隊は柔軟に運用できるため、重要性が増している。
日本周辺国も特殊部隊の増強に努めている。日本の場合は、脅威度の高い過激派のテロよりも、テロや犯罪を装った特殊部隊の破壊工作の方が起こる可能性が高い。一般国民も日本がそのような脅威にさらされていることを自覚しておくべきだろう。
特に国外では日本人や日本企業も、このような脅威度の高いテロに巻き込まれる可能性がないとは言えない。最近の特色を踏まえて、海外での警護や企業の警備態勢を見直すことも必要だろう。
ウ 日本の国家としての在外邦人保護態勢の不備
外国の場合は一般に、ある国が内乱、騒擾状態になり自国の民間人がその国にとどまるのが危険になれば、緊急時には軍が危険を犯して救出し、自国まで警護しながら連れ帰ってくれるようになっている。
1985年のイラン・イラク戦争時に、イラクのフセイン大統領がテヘランの空爆に先立ち、イラン上空を飛ぶ航空機はすべて撃ち落とすとの警告を発した。そこで各国は軍用機や民間航空機を使い脱出し始めた。
しかし日本人の脱出支援は、当時の自衛隊には権限がなく、日航のチャーター機派遣も組合の反対と準備不足で利用できず、やむを得ずトルコ航空に依頼したということがある。
今では自衛隊には「在外邦人等の輸送」の権限は与えられている。ただし、戦闘下や戦闘状態になるおそれのある危険地域の日本国民を救出したり警護する権限は今でもない。また自衛隊は、隊員と邦人などの生命と身体を防護するため必要最小限の武器の使用が認められているだけである。今でも、脅威を排除して救出するために必要な武力の行使はできない。
在外邦人はまず自力で、安全が確保された後方の地域まで逃げてきて、指定の空港などにたどり着かなければならない。無事到着できれば、待ち受けた自衛隊が輸送機などで運んでくれる可能性が出てくる。
このように、日本は国として危機管理態勢が不備である。このため、国外で万一のことがあれば、在留邦人は国の保護は受けられない場合が多いことを覚悟して行動する必要があるだろう。
そのように自衛隊の権限を縛り、同胞を危険にさらしているのは、日本人自身の政治的選択の結果である。日本人自身がその理不尽さに気づき、自力で法令を改めない限り、危機になればいずれ犠牲者が出ることになるだろう。