人口扶養能力が高いコメを作ってきたために、アジアの農村部は人口密度が高い。そのアジアで経済発展が始まると、農村と都市との間に急速に経済格差が広がる。
この現象は世界中で観察されるが、農村人口が多いアジアでは大きな問題になる。中国農村の貧困も、タイのタクシン元首相を巡る政争(注:タクシン元首相は2006年の軍事クーデターで政権の座を追われ国外に亡命した)も、農工間格差問題として捉えることができる。
農工間格差を効果的に是正してきた自民党
日本は農工間格差を最も効果的に是正することに成功した国である。自民党というシステムがそれを可能にしたと言える。多くの自民党議員の地盤は農村にあるが、彼らの使命は地元へ公共事業や補助金を持ってくることである。その見返りに票をもらう。
マスコミや識者はこのような利益誘導政治を攻撃してきたが、利益誘導政治が有効に機能したおかげで、日本は中国のように都市と農村の間に大きな格差がある社会にならずにすんだ。また、タイのように経済が発展した段階でクーデター騒ぎを起こすこともなかった。
日本の都市で経済活動を行っている人々(経団連など)は、自分たちの稼いだ富の一部が公共事業や補助金として地方に流れることを容認する代わりに、左翼運動が活発だった昭和において、農民票によって自民党という親米保守政権を維持することに成功した。そして、政治の安定を得て、世界第2位の経済大国を作り上げた。
しかし、平成に入るとそのシステムの変革を迫られた。バブルが崩壊したために都市部の経済が低迷して、富を農村部に回す余裕がなくなってしまったのだ。そしてソ連が崩壊すると、都市に住む人々にとっても、社会主義を掲げる政党は魅力あるものではなくなった。「社会党」は「社民党」へと党名の変更を余儀なくされた。
農村へ富を回すことによって親米保守政権を維持する必要はなくなった。それが、小泉純一郎政権による政治改革へとつながった。
極めてザックリとした記述であるが、昭和から平成にかけての自民党と農村の関係は以上のように要約できる。
自民党の心は農民から離れ始めている
現在のTPPを巡る論議の底流を理解するには、自民党が昭和の時代ほど農村保護に熱心でなくなったという事実に注目する必要があろう。より端的に言えば、もはや自民党は農工間の格差是正に強い関心を有する政党ではなくなっている。