3月4日 徳島地方裁判所に「医師から余命告知をされた母親が精神不安定になり、十分ながん治療を受けられず死亡した」として、徳島大学病院に4500万円の損害賠償を求める訴訟が提訴されました。

 報道によると、2011年3月に「余命数カ月」と診断され告知された70代の女性が精神的に不安定になり、通院で治療を続けたものの、薬を飲まなくなったりして、十分ながん治療を受けられず、1年後の2012年4月に死亡したとのことです。

 遺族の方々の主張は「告知によって患者に精神的ショックを与えないよう配慮する義務が医師にはあった」とのことです。

 もちろん、何事にもものの言い方はあり、患者の心をズタズタにするような告知の仕方は避けるべきです。しかし、どんな言い方でもがんを告知されて絶望の縁に陥らない人はいません。どんなに配慮したとしても、精神的ショックを与えない告知は不可能なのです。

 ショッピングセンターで、落ちていたアイスクリームの上で滑って転倒した70代女性が店を相手に2600万円の損害賠償を請求し、「店はアイスが落ちていないように注意する義務がある」として勝訴する時代ですから、医師ががん告知に関連して訴えられるのも当然のことだと思う方もいるかもしれません。

 しかし医療従事者は衝撃を受けています。この訴訟によって、「間違っていない医学的判断を下すことすらも、高額な賠償金の対象となり得る」ということが判明したのです。つまり、「あらゆる医療が損害賠償の対象となる時代」の幕開けを告げる象徴的な訴訟に思えてならないのです。

病名告知なしのがん治療はあり得ない

 20年ほど前の1990年代、がんの告知を患者に行うかどうかについて、日本ではまだコンセンサスが得られていませんでした。がんの告知をしないまま治療を行うこともしばしばあったのです。

 しかし、10年後の2000年までに告知はほぼ必須となりました。2002年には最高裁で末期がん患者に対して告知をしなかった医療機関が「対応が不十分」として敗訴したくらいです。

 ですから、現状においては本人への病名告知なしのがん治療は特殊な場合(本人が認知症を発症しており理解できない場合など)を除き、あり得ないのです。