「こんなにがんじがらめにされたら、商売あがったりだ」・・・。

 2012年秋、米国の運用会社アナリストと会った際、こんな愚痴が聞こえた。

 「がんじがらめ」とは何を指すのか。私が訊ねると、即座に答えが返ってきた。米国で近く施行されるとの観測があるインサイダー取引規制の中身のことだ。

強すぎる規制案で「アナリスト失職の危機」

 先のアナリストは、所属会社のコンプライアンス担当役員から以下のような内容で指示を受けたと明かす。

 「売買注文を出したブローカー(証券会社)との間で交わした発注データを100%当局に報告するほか、大幅な取材規制も強化されそう」等々だ。

 株式運用を手がける機関投資家は、広範な業種の銘柄の売買を執行する。当然のことながら、複数の証券会社を通じて売買を行うのが常だ。まだ正式には決まっていないが、米規制当局はその全てを把握しようと試みている、というのだ。

 なぜこうしたことに足を踏み入れようとしているのかと言えば、公募増資やM&Aなどに絡む違法取引を、忠実に、そして確実に捕捉し、炙り出そうという狙いがあるのだ。

 アナリストの取材に関しても、大幅に規制が強化されそうだという。

 証券会社や運用会社に所属するアナリストは、担当する業種の広範な事案を取材する。新製品の開発度合いや、同業他社との詳細な比較のほか、個別企業の財務の細部もウオッチする。もちろん、会社によって公表されたデータだけではなく、「取材を通じて築き上げた人脈を使い、同業他社のアナリストよりも一足先に重要情報にアクセスするのが醍醐味」(米系証券アナリスト)。