前回は、まさに今バブル真っ盛りである上海の不動産事情をお伝えした。

 この不動産バブルの受難者となっているのが、「持たざる」一般市民である。ただし、上海では一口に「一般市民」と言っても一様ではない。階層化が進み、利害関係も一致しないため、なかなか一括りにはできない。

 今回は、様々な立場の上海市民がバブルに巻き込まれ、どんな「悲喜こもごも」が生じているのかを紹介しよう。

自宅マンションが価値上昇、本当は売却して引っ越したいのだが

 最近でこそ上海を走るタクシーはこぎれいになったが、まだまだ怪しげなクルマも多い。ガタガタの車体に疲れ果てた運転手に生活の厳しさを想像するが、驚くべきことにマイホームを持つ運転手は少なくない。

 「2004年に平米単価4500元(当時は1元=約13円)で中古マンションを買ったら、今はその価値が単価2万元にまで上がった」

 そのタクシー運転手は、資産価値を膨らませてくれた不動産バブルにまんざらでもない様子だ。

 一方、閔行区の虹橋空港にほど近い場所に、魏さん(仮名)一家が中古マンションを手に入れたのは2004年のことだった。

 だが、憧れの持ち家に気持ちを高まらせたのもつかの間、あちこちにトラブルが続出した。トイレのつまり、シャワーの不具合、そのうち天井から雨水が浸みだし、壁は一面カビだらけになってしまった。

 ところが昨年の不動産価格の高騰で、40万元で買った自宅が100万元(1元=約13円)と、2.5倍の価格につり上がったのである。

 「買い換えよう!」と魏さんは言ったが、妻は「100万元で買える物件などこの周辺にはない」と一蹴した。ここを売却して出ていった家族もあるが、越した先は地下鉄の駅すらないような郊外。妻は彼らが病院もコンビニもない生活を強いられ、買い換えを後悔していることを知っていたのだ。

 「せめて南向きの、カビの生えない家に住みたい。でも、上海ではもはやそんな希望すら叶えられない」と漏らす。

「ほぼ寝るためだけ」の実物支給された自宅

 上海人に「あなたは家を持っているか」と聞くと、10人に8人はいるだろうか、かなりの高い割合で「ある」という答えが返ってくる。地下鉄1号線の終点駅に住んでいる張さん(仮名)も、「ある」と答えた1人だ。その自宅は「90年代、職場(国有企業)から実物支給されたものだ」と説明する。