国境を越えて資本が自由に動き回り、世界各国で外資によるM&A(企業の合併・買収)が活発化している。日本でもアパレル業界老舗のレナウンが中国企業の傘下入りを決めて波紋を呼んだが、全体的には海外からの対日直接投資は低迷している。日本企業の間に外資に対するアレルギーが根強いためだ。
しかし、経営不振に陥った企業を日本の資本だけで救済できる時代は過ぎ去った。バブル崩壊後の破綻した大手銀行や生命保険会社、製造業でも日産自動車などが外資導入で再建を進めた。「座して死を待つ」のではなく、海外からマネーを取り込んでも企業の存続と従業員の雇用確保を目指すべきだろう。
アドベント・インターナショナル(本社米国ボストン)は世界有数のプライベートエクイティ(PE)ファンド。戦略的に投資対象を中堅サイズの企業に絞り込み、各国で買収や再建を展開。日本でも600億円規模のファンドを設定し、投資先の選定を進めている。
アドベント東京オフィスの松本洋代表は日本鋼管(現JFEグループ)で初代ワシントン事務所長を務め、上席副社長として日本鋼管が買収した米ナショナル・スチールの再建に成功を収めた。
JBpressは国際業務や企業再生の経験豊富な松本氏にインタビューを行い、ギリシャ危機で動揺するユーロ経済の動向やアドベントの対日投資戦略について聞いた。(取材は2010年6月2日、AFP提供以外の写真は前田せいめい撮影)
ユーロに内在する「不均衡」が表面化、PIIGSのユーロ離脱も
JBpress 世界経済はリーマン・ショックを乗り切ったものの、今度はギリシャの財政危機でユーロに先行き不透明感が強まっているが。
1951年神戸市出身 76年東大法卒、日本鋼管(現JFEグループ)入社 初代ワシントン事務所長や米ナショナル・スチール上席副社長を経て退社 アリックス・パートナーズ日本代表などを歴任後、2007年からアドベント・インターナショナル東京オフィス代表
松本洋代表 ギリシャは公務員の厚遇など社会主義国のようになり、対外債務が巨額に膨らんでしまった。小国の危機が欧州全体を動揺させているのは、加盟国の財政問題をきちんと管理する体制がユーロの中になかったからだ。
ギリシャ危機の発生後、同様の問題を抱えて「PIIGS」と呼ばれるスペインやポルトガル、イタリアなどが慌てて緊縮財政に転換しようとしているが、信用不安を招きかねない。米国や中国、日本などの対ユーロ圏輸出が減ってしまい、悪循環に陥りかねない。
財政均衡は(考え方としては)よいのだが、今は世界経済の中に「機関車」と成長路線の戦略をつくるべき時だ。さもないと、リーマン・ショック後のような信用不安が再発する恐れがある。ただ、(巨額の財政出動と異例の金融政策で危機を乗り越えた)学習効果があるからまだよいが・・・
日本も足元では財政均衡をあきらめ、バラマキ政策ではない経済活性化を考えなくてはいけない。均衡主義に陥れば、世界経済は悪化していく。
その一方で、子ども手当などバラマキ政策を続けるなら、2014年ぐらいまでに日本の財政は破綻する可能性がある。国債を購入している国民が分散投資を始めれば、一気にギリシャ状態になるかもしれない。国と地方の借金がGDP(国内総生産)の2倍を超えているのは、主要国の中でも日本だけ。少子高齢化が進む中で返済原資はなく、そうかといって急激な増税もできない。今のような財政政策を続けていれば、間違いなく破綻するだろう。