1週間ほど前にロシアからイーゴリ・シュワロフ第1副首相が来日し、日ロ間の経済関係を日本政府や民間企業と協議する会議に出席した。彼は1967年生まれの45歳、東京オリンピックも知らない世代で何ともまだ若い。だが、今やロシア政府にあっては押しも押されもせぬナンバー2である。
1990年代後半に民間から政府に引き抜かれて国家資産の管理を任されていたが、2000年のウラジーミル・プーチン政権発足とともに大臣級に引き上げられ、以後大統領補佐官や大統領府副長官を経て2008年5月に第1副首相に任ぜられている。
極東地区にエースを投入したロシアの本気
その直後の6月にロシアで開かれた国際経済フォーラムの場で、彼は政府の代表格で登壇して大いに批判をぶった。
その批判の対象には、当時天井知らずの原油価格高騰の波に乗って怒涛の進撃を続けていたロシアの石油・ガス産業も挙げられ、それらが抱える欠陥を指摘しながら、「(ロシアは)もう自分で自分を騙すことなどやめようではないか」とまで言い切る。
これには、会場に詰めかけたロシアや諸外国のビジネスマンたちもいささか驚き、そしていくばくかの清新な風も感じたものだった。
市場経済派の彼は、しかし民間でも実務経験を積んでいるだけあって、原理主義者ではない。ロシアの実情を踏まえたうえでどう市場経済を実現していけばよいか、を考えているようだ。
政治と経済の妥協や接点を求めるタイプとも言え、その面で恐らく考え方が似ている大親分のプーチンに気に入られたのだろう。最近になって彼の金銭がらみのスキャンダルが見え隠れするが、政治家なら誰もが持つ向こう傷の1つとして今は眺めておきたい。
その彼が、ロシア・極東の開発で事実上の指揮官となり、日ロ貿易経済政府間委員会のロシア側のトップにも就任した。まさにエース級の投入である。プーチンがいかにこれらの問題を重視しているかの証左にほかならない。
プーチンの狙うところは、ロシアの極東経済を発展させ、人口を増やすことであり、極東への産業・商業双方での資本を内外から呼び寄せてそれを実現することにある。
国内経済での地域格差解消とそれによる社会の安定化を図り、極東の隣人・中国の経済面での膨張とロシアへのその浸透を将来的に食い止めねばならない。
その中で、日本はロシアの目に次のように映るだろう。
「日本にはロシアがその到来を期待する資本と技術がある。中韓との揉めごとに巻き込まれてこれらに代わる新たな進出先を探すその日本の資本を呼び込むには、今が絶好のチャンスである。そして、3.11以降は、ロシアがアジア方面に出せる数少ない商品であるエネルギー資源で、最大の得意先にもなってくれる可能性が大きい」