韓国の大統領選挙まであと2カ月。与野党と無所属の有力3候補が大接戦を演じ、その行方はまったく見えない。そんななかで、有力放送局と地方新聞社の大株主が株式売却に向けて動きだした。
「正修奨学会、MBC、釜山日報全株売却で密室合意」――。こんな「特ダネ」が進歩系の「ハンギョレ新聞」の「土曜版」(2012年10月13日付)に掲載され、韓国の政界とメディア業界は大騒ぎになっている。
記事が前日のインターネット版で公開されると、主要紙の中には翌日の1面トップで報道するほどの破壊力のある特ダネだった。
進歩系の韓国紙が放った破壊力のある「特ダネ」とは?
正修奨学会とは何か。文字通りの奨学財団だが、ただの奨学財団ではない。その名称は、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領と夫人で1974年の光復節(8月15日)の記念式典で在日韓国人に狙撃されて死亡した陸英修(ユク・ヨンス)氏の名前に由来する。
1961年に朴正煕氏がクーデターで政権を握った際、多くの経済人や政治家が「不正蓄財」の追及を受けた。そのうちの1人が釜山出身の金智泰(キム・チテ)氏だった。
同氏は、釜山の名門商業学校を卒業後、日本が植民地運営のために設立した東洋拓殖会社に入社した。この縁で広大な土地の払い下げを受け、企業を相次いで設立・買収して実業家として成功した。1960年代初めまでには「釜山で最大の富豪」と呼ばれていたという。政治家も務めたほか、メディア事業にも進出した。地元の「釜山日報」を買収した上、韓国最初の民間放送である文化放送(MBC) や釜山MBCの創設者でもある。
朴正煕政権は、金智泰氏を「不正蓄財」や「不法な海外資金逃避」などで捜査した。金智泰氏は、釜山日報やMBCなどの株式を保有していた自身の奨学財団「釜日奨学会」を手放すことで追及を逃れた。
新政権は「没収」した奨学財団を軍事クーデターが起きた日にちなんで「5.16奨学会」に衣替えし、公益財団となった。
その後、全斗煥(チョン・ドファン)政権が誕生したあとに、名称を「正修奨学会」に変更した。この間も、釜山日報やMBCの株式は保有し続けた。奨学会は事実上、朴槿恵(パク・クネ)氏に「世襲」され、同氏が1995年から10年間理事長を務めていた。
今の理事長である崔弼立(チェ・ピルリプ)氏は外交官出身で、朴正煕政権時代に死亡した母親にかわって「ファーストレディー」としての業務をこなすようになった朴槿恵氏の秘書官を務めた人物だ。
正修奨学会は現在も、MBCの株式の30%、釜山日報の株式100%を保有しており、こうした企業からの配当金や寄付金などで奨学事業を続けている。