ギリシャの財政危機に端を発して欧州通貨、ユーロが大揺れに揺れている折、こんな話を聞いた。ある金融マンが二十数年ぶりに、かつて勤務したことのあるドイツの都市を訪れた。驚いたことに、落ち着いたその都市は昔のままだった。いや、もっと驚いたのは、昔一緒に仕事をしたことのあるドイツ人の旧友の暮らしぶりだ。
若い頃から優秀だったその友人は、当然、金融機関の役員になっていたが、日々の生活はそれこそ当時と全く変わらなかった。質素で、堅実そのもの。住宅も自分たちで修理し、塗装を繰り返して使っているから、家に招かれた時には、ドイツ赴任中の二十数年前にタイムスリップしたかのようだった、という。
堅実なドイツ人の不満
もちろん、すべてのドイツ人がこうした暮らしをしているわけではないだろう。しかし、華美に走らず堅実なのはドイツの国民性だ。金融マンの友人の生活ぶりは、決して珍しい例ではないはずだ。
そんなドイツ国民からすれば、放漫財政のつけを回してくるギリシャへの怒りが高まるのは当然だろう。何しろギリシャは総人口の4人に1人は公務員という「役人天国」である。ヤミ経済がGDP(国内総生産)の30%以上というのだから、脱税は当たり前。しかも汚職が横行している。そのうえ財政赤字を過少計上はするし、緊縮政策に怒った国民が暴動を起こす始末。
かといってギリシャには観光以外、これといった国際競争力のある産業はない。欧州連合(EU)諸国や国際通貨基金(IMF)が協調融資したところで、債務の返済能力があるのかも分からない。
しかし、ドイツは欧州統合、さらにはユーロの発足を中心になって進めてきたEUの中核国家である。ギリシャ支援から逃げるわけにはいかない。それは理解できるにしても、遊んで暮らしているキリギリスを、なぜ真面目に働き続けるアリが助けなければならないのか――そう思いたくなって当然だ。
「それでもドイツは、ギリシャをEUから離脱させるようなことはしないだろう。最後まで支援するのではないか」──ある国際金融マンがこう言った。