「ナチス・ドイツ」の歴史を乗り越えて
欧州の連帯のために、ドイツは安定通貨マルクを捨てる決断をした〔AFPBB News〕
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ナチス・ドイツの歴史への反省が、現在のドイツの基礎となっている〔AFPBB News〕
なぜか。「ドイツの欧州主義に対する思い」だという。欧州大陸では20世紀の2度にわたる大戦で、膨大な数の戦死者を出した。第1次大戦だけで1000万人近く、第2次になると約2500万人である。しかも2次では民間人の犠牲者もほぼ同数いた、という。
2度と欧州大陸に戦火を招かない。そのためにはドイツが欧州化する。それがナチスの暗い過去を「克服」したドイツの、いわば国是である。だからこそ国民から絶対的な信頼を得ていたブンデス・バンク(独連銀)の金融政策の権限を欧州中央銀行(ECB)に譲り、強く、安定的だった独通貨・マルクを捨てた。
「彼らの欧州統合に対する思いは、われわれ日本人には計り知れないほど強い」。国際金融マンはそう付け加えた。
選挙のために問題を先送りする日本
さて、翻って日本である。財政赤字は国・地方と合わせると既に1100兆円を超えてしまった。しかも財政赤字の対GDP比率もギリシャを上回っている。それでも日本の国債はそのほとんどが国内で消化されている。
さらに租税負担率は欧州の主要国よりはるかに低く、消費税を中心にかなりの増税余地がある。つまりは膨大な財政赤字を抱えているとはいえ、ただちにギリシャ化するわけでもない。それだけに参院選挙を控えて票が逃げることを恐れる民主党は、なかなか消費税増税を言い出さない。
「だからこそかえって大変なのだ」と言ったのは、金融マーケットをよく知るある日銀OBである。「外国人投資家は、日本の財政は3年後に破綻する、と見ている」
3年後とは、政権交代後の初めての衆院選が予想される年である。支持率が急落し、このままでは政権維持が苦しくなる民主党は、人気回復のために今後とも財政のばら撒きを続けるしかないのではないか。その片鱗は既に、2010年夏の参院選に向けた政策にも表れている。増税路線など選べるわけがない。そんな読みが外国人投資家にはあるのだろう。
「現在、日本の国債の外国人保有比率は7%。その7%がどう動くかで国債相場は様変わりするかもしれない」。証券界に詳しい官僚OBもそう言った。
しかし、外国人投資家が国債を売り始めたら、日本人投資家はどう反応するのだろう。ドイツと同様、質素で堅実だった日本は、いつの間にか数値化された経済的価値を最優先するようになってしまった。人間同士の絆、あるいはそれに支えられた温もりのある社会などは、守るべき価値としてははるかに劣位である。
国債相場が暴落し始めたとして、それを必死になって買い支えることなど、もはや美談にもならないのかもしれない。