「タコライス」という名前を初めて目にしたのはいつだったか。どこか都内のカフェだった気がする。おそらく多くの人が思っていたように、最初はタコ(蛸)を使った料理を想像していた。なんとなく、洋風チャーハン的なものを。
今回取り上げるにあたって資料を読んでいて、「タコスといってもタコの酢のものではない」(『週刊朝日』1996年9月16日号)なんて記述を見かけた。ほんの十数年前まで「タコライス」という料理は一般的でなかったのだ。
いまではタコライスを、タコを使った料理だと考えている人は少ないだろう。もはや言うまでもないかもしれないが、タコライスとは、タコスの具をごはんに載っけた食べものである。
白いごはんの上に、炒めた挽肉、チェダーチーズ、シャキシャキとしたレタス、トマトをどかどかと載せ、サルサソースをかける。小洒落たカフェなどに行くと、具の上にさらに目玉焼きが載っかっていたりする。
日本料理から見れば、タコライスはかなりギョッとする食べものである。「第二のカレーライス」と言われることもあるようだが、その呼び方にはちょっと違和感がある。カレーライスはどちらかと言えば汁物だ。汁物をごはんにぶっかけるのは、和食の常套手段。けれど、タコライスには汁気がない。
そう言うと、汁気のない丼ものもあるじゃんと思われるかもしれない。が、タコライスの異質さは、酢飯ならいざ知らず、あったかいごはんに生野菜が載っかっているところだ。繊細さがウリの日本料理にあって、タコライスの大らかさ、豪快さは異質である。あとから沖縄で生まれた料理と聞いて、さもありなんと合点した。
では、この大らかな料理はどんなふうにして生まれたのだろうか。今回は、夏に食べたい一品の源流をたどってみよう。
本場のタコスは多種多様
タコライスの誕生を追いかける前に、この料理の元となった「タコス」についてちょっと触れておきたい。