「京都で『この間の戦争』というと、応仁の乱を指す」という冗談がある。
これは、京都の人たちにとってあながち冗談ではないようだ。太平洋戦争で京都は空襲の被害を受けなかった。しかし、応仁の乱(1467~1477年)で京都は焼け野原になっている。京都の人にとって、自分たちの住む町を壊滅させ、歴史を分断してしまった「直近」の戦争が応仁の乱なのである。
そこには京都人のプライドもにじむ。京都は、それだけ長い歴史を背負っているということだ。東京が日本の首都になってから、まだせいぜい百数十年。一方、京都は1000年にわたって日本の「都」だった。京都こそが、ずっと日本の歴史の中心だったのである。
『宮司が語る京都の魅力』(PHP研究所)を読むと、京都を理解することと日本文化を理解することは、限りなく一体だということがよく分かる。私たちは意識せずとも、古来から連綿と続く日本の伝統文化の中で生きている。それらは実は様々な形で京都とつながっている。
著者は、京都にある恵美須神社の第37代宮司を務める中川久公氏。恵美須神社は鎌倉時代に栄西禅師によって建立された京都有数の神社である。
中川氏は本書で、京都の代表的な伝統行事や雅楽、京都を代表する神社仏閣、日本の様々な年中行事について起源や由来を解説している。
タイトルには「京都の魅力」とあるが、話の内容は京都だけにとどまらない。本書は、様々な具体的な伝統行事の解説を通して、日本人特有の宗教観や自然観を明らかにしており、実体と手応えのある「根源的」な日本文化論となっている。
京都はなぜ奈良よりも親しみやすいのか
── 京都は奈良に比べると、庶民から見てとても身近な都市だと書かれています。
中川氏(以下、敬称略) 京都にも奈良にも古い寺院がたくさんありますが、奈良の方は天皇と一部の貴族のための宗教施設が多い。そのため、庶民からは非常に遠い存在になっています。
それに対して、京都には、みなさんの先祖が祀られている宗教の総本山や大本山がたくさんあります。つまり、京都の寺院は、みなさんの生活の延長線上にあるのです。
── 身近だから観光客がたくさん集まると。
中川 宗教に限らず、京都はおみやげだって全国のみなさんにとって身近なものばかりです。京都のおみやげはいっぱいありますが、実は本当の京都産ってほとんどないんですよ。例えば京菓子が有名ですけど、京都じゃ大豆も砂糖も小麦粉もとれない。でも、それが京都の名物になっている。