ただし、自衛隊幹部や中堅幹部の中に、併用戦能力や海兵隊に対して真摯になってきた人々が少なからず現れてきたといっても、いまだ限られた数であろう。また、海兵隊側としては、それらの将校たちに対しても併用戦や統合運用、そして海兵隊そのものに関する基本的概念からみっちり学んでもらう必要があるとしており、どのように協力していくかについて模索中であるという現状だ。
いくら自衛隊が「海兵隊的能力(併用戦能力+統合作戦能力+緊急展開能力)が日本防衛に必要不可欠である」という事実を認識してそれらの構築準備を開始したとしても、“日本海兵隊”や“海上自衛隊水陸両用戦隊”といった併用戦実施部隊を誕生させるためには、当然ながら莫大な予算が必要となるため、官僚や政治家そして何より国民の理解が不可欠となる。
アメリカでは「真っ先に戦う」頼りになる存在だが・・・
しかしながら、海兵隊的能力に関する日本社会一般における印象は相当芳しくない。そもそも「アメリカ海兵隊」というだけで、軍事とは無関係の多くの人々は悪いイメージを抱いているようである。
日本のある大手出版関係者によると、「書籍の表題に“アメリカ海兵隊”という語が含まれているだけで、店頭に並べるのを躊躇する書店が少なくありません」とのことである。なぜなら「一般の人たちにとって、アメリカ軍すなわち駐留米軍は“灰色”の存在ですが、海兵隊すなわち在沖海兵隊は“真っ黒”の存在なのです。」
さらに、これは海上自衛隊幹部から聞いた話なのであるが、伝統的軍港都市である佐世保では自衛隊に対してはもちろんのこと、アメリカ海軍に対しても市民感情が極めて良好である。もちろん佐世保では頻繁にアメリカ軍艦にアメリカ海軍将兵が乗艦して入港し佐世保の町に上陸している。ところが、アメリカ海軍強襲揚陸艦が作戦任務から帰還するアメリカ海兵隊員を満載して佐世保に初めて入港することになったら、アメリカ軍人にアレルギーのなかった佐世保で、アメリカ海兵隊員の入港・上陸に対する危惧と反対の声が上がったとのことである。
アメリカの一般の人々の多くにとっては、アメリカ海兵隊というのは国際紛争解決(アメリカ側から見てのだが)の先鋒部隊として「真っ先に戦う」頼りになる存在と考えられている。