ハヤシライスとハッシュドビーフはどう違うのか。

 かねてうっすら疑問に思いつつも、なんとなくやり過ごしてきた。

 ハッシュドビーフは、ホテルのレストランなどで供される本場仕込みの欧風料理(本場がどこかは分かっていない)。ハヤシライスは、日本人の口に合うよう改良された洋食屋のメニュー。そんなふうにざっくり分けて考えていた。

 だが、本当のところはどうなのか。長年の疑問に向き合おうというのが、今回の目的だ。

 図書館に調べに行く前に軽くネットで検索してみる。

 「ハヤシライス ハッシュドビーフ 違い」と入力して検索すると、出てくるわ、出てくるわ。私と同じように疑問を抱いていた人が、世の中にかなり存在していることが分かった。

 で、検索してスッキリしたかといえば、全然スッキリしない。ハヤシライスとハッシュドビーフは同じと断定する人もあれば、別物であると主張する人もいる。結論に至るまでの解説も何バージョンかある。

 結局のところ、ハヤシライスの発祥には諸説ある、というのが分かっただけだった。

ハッシュドビーフ説とハヤシさん説

 ハヤシライスの生まれについては、大きく分けて2つの説がある。最もよく見かけるのが、「ハッシュドビーフ起源説」だ。

ハヤシライス。欧風カレー似だが、味はマイルドで一線を画す

 「ハッシュ(hash)」は「(肉などを)細かく切る」の意。細切れ牛肉を煮込んだ料理にライスを添えた「hashed beef and rice」もしくは「hashed beef with rice」が「ハッシライス」もしくは「ハイシライス」と略され、ハヤシライスに転じたというのが、ハッシュドビーフ起源説だ。

 言語学者の楳垣実は『日本外来語の研究』の中で、「ハシト」(ハッシュドを縮めた呼び方)が「ハヤシ」に訛ったのは、明治時代によく使われていた「切り刻む」を意味する「はやす」の影響があったと述べている。