同調圧力という言葉がある。職場や社会で少数意見を持つ人に、多数派に合わせるように迫る露骨な、あるいは目に見えない圧力。
テレビや新聞が事あるごとに喧伝する「自粛」や「不謹慎」、あるいは逆に「前向き」や「自分を好きになる」といったポジティブさへの同調圧力に居心地の悪さを感じたことはないだろうか。
夢を持つ、成長する、という「前向き」なことに偏り、暗さを忌避する風潮に疑問を呈するのは『絶望名人カフカの人生論』の著者、頭木弘樹氏。頭木氏は難病で入退院を繰り返した経験から、平和で幸せな日常に絶望するカフカの失意の名言を編訳した。
一方、アメリカ的成功哲学の価値観の押し付けに異議を唱え、世間の「夢」の均質化を懸念するのが『他助論』の著者である清水克衛氏。清水氏は小さな書店の不利を逆手に取って、自身の店「読書のすすめ」のファンを獲得している。
人生のマイナス面に向き合うことの大切さや、一様な価値感への息苦しさを指摘する両氏の対談から見えてくるものは何か。
ベストセラーが入荷せず、開き直ってお客が喜ぶ本を薦め成功
コンビニ店長を経て、1994年に書店「読書のすすめ」を開業。立地条件の悪い小さな書店ながら、“本のソムリエ”としてファンを獲得している。2003年に設立したNPO法人、読書普及協会の理事長でもある。
清水 うちの店(読書のすすめ)は駅から少し離れた場所にあるんですが、開業する時にいろんな人からそんな場所で本屋をやってもダメだと言われました。でも、私はそんなことはないと思っていました。
頭木 それが驚きですよね。普通は駅前とかじゃないですか。
清水 なんか変な自信があったんですよね。うまくいくはずだという。
ところが始めてみると、世間で売れている本がまったく入荷しないんです。これは出版業界特有の仕組みで、取次(本の卸業者)に注文しても小さな本屋にはベストセラーは絶対に入ってこない。
大きな書店が優遇されていて。最初はチクショーと思いました。お客さんがテレビで紹介されていた本を買いに来たりするんですが、店にないんですから。辛かったですね。
ところがある日、吹っ切れたんです。開き直って、「そんな売れてる本なんて要らねーよ」と。
そう思えた時から、「うちは品揃えが悪いですよ」と自信を持って言えるようになり、売り上げがよくなっていった。今は逆に世間で売れている本は頑として入れません。だから『ハリー・ポッター』もない(笑)。
頭木 ベストセラーが入らないということで、自分の好きな本を集めるところから始められたんですか。