「本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 企業を取り巻く利害関係者との関係を表す「(その3)共存共栄」は、本流トヨタ方式の根幹とも言える考え方であり、行動規範でもあります。前回から、企業として第2優先に取り組むべき関連企業との関係や、地域、環境の話に入りました。その手始めとして、関連企業とのおつき合いについての話をしました。

 自動車生産は「総合産業」とよく言われますが、その名の通り、1台の自動車は実に様々な部品、材料から成り立っています。自動車産業が誕生した頃は、自動車の構成部品を量産できる工場が産業界にまだなかったので、ほとんどの部品を内製することで対応してきました。トヨタもほとんど内製していました。

 終戦後、進駐軍の財閥解体政策によって、トヨタはトヨタ本体とデンソー、豊田合成、愛知製鋼、トヨタ車体、アイシン精機とに分離させられました。この時から、アセンブリメーカーとしてのトヨタ自動車と、サプライヤーとしての兄弟会社および独立系のサプライヤー各社との本格的なおつき合いが始まったのです。

 本流トヨタ方式において、トヨタ本体とサプライヤー各社は次の5項目の心構えでおつき合いをしています。

(1)グループ会社はトヨタ以外の客先と取引を進め、量産効果を出すべし
(2)外部との「コンカレントエンジニアリング」で効率よく新車を開発すべし
(3)内製・外製の判断は、経営トップの判断で決めること
(4)新製品や難しいモノは外注に出すな
(5)やさしいモノでも2割は残せ

 前回は(1)~(4)についてお話ししました。今回は(5)についてお話ししますが、その前に、(3)(4)の「内製か外製か」の判断について、少し補足したいと思います。

燃料タンクとシートは二度とトヨタでは生産できない?

 筆者は1980年代にトヨタの田原工場で「ソアラ」「スープラ」「セリカ」の生産をしていました。その時、田原工場は本社地区から約80キロメートル離れていたこともあって、部品はできるだけ内製で、しかもラインサイド(組立ラインのすぐ近く)で作ろうとしていました。

 例えば燃料タンクは組立ラインの横で同期生産します。燃料タンクとして完成してから10分間の在庫時間で組立ラインの車両に組み付けられるところまで改善していきました。

 シートも同様です。バネやフレームを組立ライン側で作り、ウレタンフォームは敷地内の成形工場で内製します。外部からは縫製したカバーだけを納めてもらい、シートを組み立てました。これも、10分程度の在庫時間で車両に組み付けるレベルまで改善を進めました。

 当時のトヨタ車の中では一番難しいシートを作っており、その技術は筆者の自慢でした。製造技術はトヨタのフラグシップカーである「レクサス」の立ち上げに大きく生かされ、お客様満足度ナンバー1の獲得に貢献したと思っています。