「本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 企業を取り巻く利害関係者との関係を表す「(その3)共存共栄」は、本流トヨタ方式の根幹とも言える考え方であり、行動規範でもあります。前回までは、企業として第1優先に取り組むべきお客様との関係についてお話ししてきました。

 今回からは、企業が第2優先に取り組むべき関連企業との関係や、地域、環境の話に入ります。その手始めとして、関連企業との関係についての話から始めましょう。

フォードは「基準統一」のために部品製造を内製化

 本流トヨタ方式の展開の舞台となっている自動車生産は、総合産業とよく言われますが、その名の通り1台の自動車は実に様々な部品や材料から成り立っています。自動車の室内に入って見渡して下さい。運転席、助手席、後部座席を向かい合わせると、豪華な応接セットになります。おまけにエアコンやオーディオ、テレビまで付いています。これに、エンジンや変速機のように極めて高度な機械技術の粋が集まった動力装置が付いているのです。

 住宅は1軒が数千万円しますが、動く応接室とも言える自動車は、たった100万円でも購入できます。1台の自動車の重量は約1トンですから、重量当たりの価格を計算しますと、1トンで100万円、1キログラムで1000円、1グラム1円ということになります。1円玉がちょうど1グラムですから、自動車は1円玉の集まりだと考えることもできます。そうしてみると、いかに自動車が安くできているか分かっていただけると思います。

 では、どうして安くできるのかを、少し歴史をひもといて調べてみましょう。キーワードの1つに、自動車産業初期の、部品の「内製化」があります。

 1903年、ヘンリー・フォード氏が「A型」で自動車の生産を開始した頃、まだ世間一般の工業製品は、職人が1個1個手作りしていました。そのため、同じ図面を基に作ったモノでも微妙な誤差がありました。機械加工部品同士でさえも、組み付けようとするとピッタリ合いません。高度な腕を持つ職人がヤスリがけをして、寸法合わせしなければ組み付けられなかったのです。

 フォード氏は、自動車の大量生産を可能にするために様々な改革を進めました。その1つが、ヤスリがけ作業を廃止できるように、各部品の品質を作り込むことでした。

 この品質向上に大きく寄与したモノの1つに、「基準の統一」があると言います。それは、それぞれの職場で勝手に決めていた「設計基準」「加工基準」「組み付け基準」を統一することでした。

 例えば、10ミリ厚さの板を5枚重ねた図を描くとしましょう。この時、10ミリ厚さの1枚目を描いて、その上にまた10ミリ厚さの2枚目を描いていくと、5枚描いた時に全体の高さに誤差が生じてしまいます。

 一方、一番下の板の底を基準(ゼロミリ)にして、1枚目は10ミリの高さ、2枚目は20ミリの高さの線として描くようにすれば、全体の高さ50ミリの誤差は少なくてすみます。