冷戦が終焉してから20年経過した現在、世界ではイデオロギー論争が収斂することなく、逆に激化する様相を呈している。

 中東と北アフリカでは「ジャスミン革命」などの反政府活動が広がり、エジプトやリビアなどの独裁政権を打倒することに成功した。先進国においても「反格差デモ」の規模が拡大している。世界では、平等主義への回帰と渇望が日増しに強まりつつある。

 こうした平等主義への回帰は、かつてマルクスが提唱した共産主義のユートピアと重ね合わせると、少なからぬ類似性が見られる。

 実は、共産主義が人々を引きつけた魅力は、格差の存在を認めず、平等社会の実現を掲げたことであった。しかし、旧ソビエトと中国での社会実験の結果、平等を追い求める社会主義の実験は失敗に終わった。

 マルクス主義の社会実験こそ失敗に終わったが、平等な社会への人々の憧れが消えたわけではない。旧社会主義国のショック療法的な制度改革を提唱した「ワシントン・コンセンサス」(注:経済学者のジョン・ウィリアムソンが1989年にまとめた「金利の自由化」「貿易の自由化」「規制緩和」などの一連の政策)に対する批判は今も根強い。なぜならば、ワシントン・コンセンサスは格差の拡大を助長しているからである。

平等主義こそ社会主義が失敗した原因

 では、人間の社会は本当に平等でなければならないのだろうか。

 答えはノーである。人間の社会は平等にはなれない。そもそも人間は欲のある動物である。人間は自分たちの欲を律する必要があるが、欲を否定すれば人間社会は成立できなくなる。

 毛沢東時代の中国は、まさに禁欲の社会だった。そして徹底的に平等主義の実現に取り組んだ。しかし、欲という人間の本能が否定される社会が進歩するはずがない。平等主義の追求こそ、社会主義体制が失敗した本源的な原因であろう。

 アダム・スミスは人間の欲望を是認し、それを市場経済という枠組みに取り込み、社会分業を進めることを提唱した。古典派経済学者の貢献は、経済発展の経路を明確に提示してくれた点にある。

 もちろん、問題も存在する。市場は万能ではない。古典派経済学者たちは、市場の失敗をいかに補完するかのパッケージを提示していなかった。1929年からの経済危機も2008年からの金融危機も、市場の失敗がきっかけだった。現在、われわれは100年に1度の経済危機にあり、その出口はいまだに見えてこない。