政府は「社会保障と税の共通番号制度」の導入に向けて本格的な検討を開始した。税制や社会保障制度の透明化と信頼性向上をはかり、「給付付き税額控除」などの新たな政策展開を進めるとともに、電子行政推進、ICT(情報通信技術=Information and Communication technology) )社会の基盤として期待されている。
そもそも、国民一人ひとりに番号を振って管理する仕組みは、1968年に佐藤栄作内閣が「各省庁統一個人コード連絡研究会議」を設置し、国民総背番号制の導入を目指したことに始まる。
番号制は延期、延期の繰り返し
佐藤内閣が検討を始めた当時は、国民世論は圧倒的に反対意見が多かった。その後、1974年に年金のオンライン化が決定された際にも、「年金や健康保険などの番号を統一すべきだ」という議論があったが、結局は実現できなかった。
納税者番号の導入の試みは、1980年の税制改正で「グリーンカード」(少額貯蓄等利用者カード)の導入が決まった。しかし、法律成立後にプライバシーの侵害を理由に反対運動が激化。当時の郵政省や、郵政族議員、金融業界などの反発もあって、1983年に法の実施が延期され、最終的には1985年3月に同法は廃止となった歴史がある。
さらに1999年には住民基本台帳法が改正され、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)の設置が決まったが、これを納税者番号に使うことは禁じられた。加えて2003年に成立した個人情報保護法によって個人データの利用が厳しく制限されることになった。
しかし、2009年の衆院選で民主党がマニフェストに「税と社会保障共通の番号制度」の導入を掲げて政権交代。検討は、一気に本格化している。
住基ネット番号軸に検討か
菅直人副総理兼財務相は、2010年1月末に「共通番号制度」について、(1)新しい番号の創設 (2)既存の年金番号の利用 (3)住民基本台帳ネットワークの活用の3類型を想定し、「メリットやデメリット、費用などを国民に示し、専門家に議論してもらう」方針を示した。
さらに、峰崎直樹財務副大臣は2月22日、「個人的考え」と断った上で、「住基ネットの利用が適している」と発言。古川元久国家戦略室長は、「いくつかの番号が併存する中で、基礎となる番号とつながりがあるような形が好ましい」として既存の複数の番号を「基礎番号」で束ねる仕組みを軸に検討する方針を示した。基礎番号については「住基ネットが一番広く付いた番号」として活用に前向きな考えを示した。
翌23日には原口一博総務相が同省の政務三役会議で、住基ネットの活用について、過去に民主党が導入に反対した経緯に触れつつ「発想を変えて利用することも含めて」検討すると述べ、以下の5つの原則を示した。
- 原則1:国民の権利を守るためのものであること
- 原則2:自らの情報を不正に利用・ストックされず、確認・修正が可能な、自己情報をコントロールできる仕組みであること
- 原則3:利用される範囲が明確な番号で、プライバシー保護が徹底された仕組みであること
- 原則4:費用が最小で、確実かつ効率的な仕組みであること
- 原則5:国と地方が協力しながら進めること