メディアコミュニケーション学では、イノベーションの普及過程にもっぱら注目する傾向が強かった。しかし最近では、メディアマネジメント学の領域で、イノベーションそのものを取り上げて、将来のメディアビジネスモデル構築に向けた事例研究として力を入れるケースが目立つ。
2004年から2006年まで International Telecommunications Education & Research Association(ITERA)会長を務めたウェスタンミシガン大学コミュニケーションスクールのリチャード・ガショーン教授(メディアマネジメント学)は、メディア関連企業のイノベーションには3つのパターンがあると指摘する。
1つめは「プロダクトイノベーション」だ。例えば、かつて音楽はコンサートに行ったり、自宅の居間でオーディオセットでじっくりと聴くものだった。それが、ソニーのウォークマンの誕生によって、歩きながら、電車に乗っている途中も、勉強しながらでも音楽を聞けるようになった。
書籍流通に革命をもたらしたアマゾン〔AFPBB News〕
2つめは、新たなビジネスの手法を提示する「ビジネスモデルイノベーション」。インターネットを活用して書籍販売に革命を起こした「アマゾン・ドットコム」がこれにあたる。インターネットと書籍流通をつなげることで在庫管理を効率化し、多品種・少量販売で大きく売り上げて利益を確保できるロングテール効果がこれには伴っている。
3つめは「ビジネスプロセスイノベーション」だ。1997年に設立されたオンラインDVDレンタルの「ネットフリックス(Netflix)社」がこれにあたる。2009年末時点で1230万の顧客を抱える、最大のレンタル会社となった。
ネットフリックスについて詳しく紹介しよう。従来のレンタルショップは、利用者が店に出向いてDVDを借り、見終わったら再び店に行って返却する必要があった。
ネットフリックスはビジネスの過程(プロセス)を変更し、「客に来てもらう」のではなく、「客に届ける」仕組みを作ったのだ。しかも、このデジタル化全盛期に、最もアナログなシステムである「郵便」と結びつけることでイノベーションを生み出したのだ。


