今年は「トヨタ生産方式」の生みの親とされる大野耐一氏の生誕100年に当たります。

 「トヨタ生産方式」は大野氏の高邁な経営哲学から生み出されましたが、大野氏が現役を退かれて30年経った現在、残念なことに「5S(整理・整頓・清潔・清掃・躾)」「ムダ取り」といった手法のみが伝えられ、肝心の理念の部分が伝わらず、大野氏の思いとは逆行するモノも現れています。

 そこで本連載では本物の「トヨタ生産方式」を少しでも世間にお伝えするために、あえて「本流トヨタ方式」という名前をつけ、根底にある「哲学」に重点を置いて説明しています。

 その哲学の部分は「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」に大きく分けられます。2011年2月からは、「(その4)現地現物」についての話をしています。

 筆者が最近危惧していることがあります。それはERP(Enterprise Resource Planning)を導入した結果かどうか分かりませんが、1カ月の現場の活動結果をすべて「金額」で表し、金額を議論する会社が多くなってきたということです。

 料理に例えれば、ベーコンエッグの作り方は、通常「ベーコン3枚をフライパンに入れ、弱火で焼く。ベーコンに火が通った時点でフライパン内の余分な油をキッチンペーパーで拭き取る。その後、卵2個を割って入れ、好みの焼き具合になったら火を止め、皿に移し、熱いうちにお客様に出す」という記述になります。

 これが金額だけの会議資料では、「ベーコン85円、卵50円、キッチンペーパー代1円、ガス代1円、人件費200円、その他費用150円で 合計487円」という記述がなされるのです。この資料で行う会議からは、どうやって安くて美味しい料理にするかという議論は望むべくもありません。

 「本流トヨタ方式」の教えは、次のようなものです。

 現場に立てば、金額は一切関係ない。お客様(後工程)が必要とし、笑顔で喜んで受け取ってくれる製品を何個作ったのか? そのために原料を何個、何キログラム使ったのか、作業は何時間かかったのかで評価すべきである。言い換えれば、現場をコントロールできるのは、「長さ」「重さ」「時間」で表せる特性しかない。金額で結果を表せたとしても、現場はコントロールできない。