「おしぼりうどん」をご存じだろうか?

 すりおろした辛味大根を搾っただけの白濁の汁に、うどんをつけて食べるもの。信州では各地に伝わる食べ方だ。

大根の辛さがくせになるおしぼりうどん

 一口食べると、大根の強烈な辛さがツーンと鼻に抜け、次に口の中全体に痺れた感じが広がる。そしてしばらくたつと、胃袋がぽっかぽっかとあったかくなる。

 味噌やかつおぶしなどの薬味を入れると辛さが抑えられ、同時に大根が持つ甘味や風味がぐーんと引き立つ。うどんの代わりに蕎麦もよく合う。地域によっては絞り汁ではなく、おろした大根そのものを汁の中に入れたり、そのままぶっかけたりすることもある。

高い栄養値がある大根の魅力

 青果市場では、すらりと長くみずみずしい青首大根がほとんどを占める中、長野県や東北地方、京都などの一部の地域では、短胴でぎゅっと引き締まった地大根が代々受け継がれて流通している。

 その中でも辛味の強いのが「辛味大根」だ。長野県埴科郡坂城町の大根は、その形がねずみに似ていることから「ねずみ大根」と呼ばれている。

 話は逸れるが、実はこの坂城町には「神ネズミと唐猫様」という民話が残されているくらい、ねずみと縁が深い地域でもある。

 どんな民話かというと、かつてこの地で人の血を吸う害虫が流行した。その時に、白いねずみが現れて害虫から町を守った。町の守り神として神のように扱われたねずみは、やがて大ねずみに成長。人里に下りて食物等を食い荒らし始めた。

 そこで、唐の国から大猫を呼んて退治したが、その大ねずみが逃げる際に岩をかじった跡が千曲川になった。なお、このねずみと大猫を奉ったのが鼠大明神と唐猫神社である。

 大根の話に戻ろう。そもそも大根のルーツは、中東から中央アジアにかけての地域が原産とされている。紀元前2700年頃には古代エジプトでピラミッドを建設する労働者の食料として用いられていたという記録がある。