米大統領選は民主党候補バラク・オバマ上院議員(47)が共和党候補ジョン・マケイン上院議員(72)を下して圧勝、史上初めて黒人大統領が誕生する。未曾有の金融・経済危機の中で、ブッシュ流市場原理主義と決別する経済政策「オバマノミクス」が始動した。一方、「摩擦から協調」に移行したはずの日米経済関係に、新たな試練が訪れる可能性もある。
史上稀に見る大激戦の転換点は、恐慌前夜の様相を呈した9月の金融危機。同月15日、証券大手リーマン・ブラザーズが破産申請し、連鎖破綻の恐怖が金融市場を覆い始めてもなお、マケイン氏は「米経済のファンダメンタルズは強い」と発言し、経済音痴ぶりをさらけ出した。
また、直前に大統領討論会の延期をオバマ氏に申し入れるという、大失態も演じてしまった。表向きは、選挙戦を中断して公的資金7000億ドルを投入する金融安定化法の協議を取りまとめたいと主張していたが、「苦手の経済問題での討論から逃げ出したいのでは」との見方があっという間に広がった。
延期要請に対し、オバマ氏は「1度に複数のことをこなすのも大統領の仕事のうちだ」ときっぱり拒否。この時点で雌雄は事実上決した。
21世紀版ニューディール政策
出口調査によれば、大統領選の最大の争点を「経済」と答えた人は62%で、2位のイラク(10%)を圧倒的に引き離した。経済と答えた人のうち、56%がオバマ氏に投票。有権者はオバマ氏に経済再建の期待を込めて票を投じ、これが勝利への原動力となった。
かつてビル・クリントン前大統領の経済政策がクリントノミクスと名付けられたように、オバマ氏の場合はオバマノミクスと呼ばれる。左寄りのリベラルであるオバマ氏は、政府の役割を重視する「大きな政府」を目指す。緩みすぎた規制を強化し、富裕層から低・中所得者への所得再分配を強化する税制をとる。
オバマノミクスのモデルは、1930年代の大恐慌を乗り切ったフランクリン・ルーズベルト大統領のニューディール政策のようだ。オバマ氏は頻繁に、今回の金融危機を「大恐慌以来の」と形容する。11月5日未明の勝利演説では106歳の黒人女性の支持者が歩んできた苦難の歴史を振り返りながら、「大恐慌の絶望がこの地にあった時、彼女は国民がニューディールと新しい仕事で恐怖を克服するのをその目で見た」と、ルーズベルトの政策を絶賛した。
巨大ダム建設のテネシー渓谷公社(TVA)に代表されるニューディール政策と同様、オバマ氏が公約した景気対策にも250億ドルの公共事業対策基金が盛り込まれた。この基金を全米の橋や道路の修理にバラ撒き、他の対策と併せて100万人の失業を防止するという。
オバマノミクスのもう1つの特徴は累進課税の徹底だ。年収25万ドル超の富裕層を対象にブッシュ大統領が行った所得税減税を打ち切る半面、低・中所得層の減税を強化すると公約した。ただ、「所得の再分配」という発想は「白人から黒人への富の流出」を連想させるため、米保守層には極めて不人気な政策となる。