本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 「(その1)人間性尊重」の哲学には、次の8カ条があります。

(1)ありのままを受け入れ、持っている能力を引き出し、存分に発揮してもらう
(2)会社都合で従業員を解雇しない
(3)家族の応援と職場のチームワークが活力の源
(4)人を責めずにやり方を攻めよ
(5)異動は一番優秀な人から
(6)3年経ったらサボれ
(7)偉い人が言ったから正しいのではない。正しいことを言った人が偉いのだ
(8)最後に決断を下し、全責任を取るのが上司の役目

 これまでに、この中の(1)~(5)について話をしました。 今回は
「(6)3年経ったらサボれ」についてお話しいたします。

新しい職場では、まず部下にガツンとやる

 このコラムでは強く印象に残るよう、時折り、意外性のある、はっとするような言葉を使っています。この「サボれ」という言葉もその1つです。「3年たったらサボれ」とは、こういうことです。

 「管理・監督職に就いたら、一刻も早く、2年以内でその職務をマスターしてしまいなさい。3年目からは部下に権限委譲して、その職務をやらせ、部下の育成に重きを置きなさい。それと同時に、3年目からは自分自身も、自分の所属する組織全体の成果が上がるよう上司の手伝いをしなさい」──。こう聞けば、その意味はかなり理解してもらえるものと思います。

 まず、「職務を一刻も早くマスターする」ことの大切さについて考えてみましょう。

 鳥の雛は、ふ化した瞬間に目の前にいる動く物を親鳥と認知し、常にその後を追って行動する本能があると言います。何事も最初の出会いが肝心なのです。

 船が好きな筆者は、軍艦が登場する映画をよく見ます。最初が肝心という意味で印象に残っているのは、着任した米海軍の新任艦長が部下である将校に初めて接するシーンです。新任艦長は部下の顔を見るなり、一人ひとりの名前を言い、主な経歴を言い、細かい2~3の質問をします。そうることで部下に対して「お前のことは全部知っている。だから艦長を信頼して言うことを聞け」と分からせているのです。

 新任艦長が、着任した艦の中を点検する時も、通り一遍のことは飛ばして、細かいところを確認するという態度に出ます。部下にしてみると、今、担当している職務について何が課題であり、それにどう対処しているかを答えなければなりません。この答えを聞けば、艦長はその担当者がどの様なレベルにあるかが分かってしまいます。